その3
「神箒の入った宝箱、あれの鍵が使えそうな気がしない?」
祭の言葉に、メイは前に乗り出し、タンスの鍵穴を眺める。
「使えそうな気がする。じゃあ、なおさら運ばないとね」
そこに龍が部屋へ入って来た。
「持って行くものは整理できたかい?」
「はい。これを」
タンスを指し示すメイの顔を、龍はまじまじと見つめた。
「大荷物だね…」
「でも、女のカンでこれにします」
「“コレ、ハコブ”」
「ほら。ドラゴちゃんも、そう言ってます!」
「何だかメイがどんどんミコト化してるような…」
ぼそっとつぶやく鈴露に祭がささやく。
「おにいちゃんを越えた気がするわ、この天然ぶり」
「ん? 祭、天然のブリが食べたいのか?」
「妊婦さんは、お刺身は控えたほうがいいわよ」
部屋に入って来たのは奏子だった。
“天然率がさらに高くなった…”
鈴露と祭は同時に思ったが、口にはしない。
「はい、大根と煮物にします」
微笑む祭に微笑み返す奏子。
「そうそう、あなた。皆に連絡取れました。今夜からお祭りが終わるまで、清流旅館に再度集合して、お手伝いすることになりましたから」
「そうか。わかった。でも…恭介くんは仕事そんなに休めないよな」
「夏休みを取ってなかったから、ここで取るって言ってましたわ」
有川恭介は、祖父同様、外務大臣をしていた。
本来、政治の世界に関わる人間は“命”になれないのだが、その“外交手腕”で、なることを認めさせた、ある意味、つわものである。
ただし、奏子には子どもの頃から勝てない。
「あのー、今夜、祭たちの祝いの席を設けるとして…真大祭まで数日ありますよね。何でまた連続でご逗留なんですか?」
「何度も行ったり来たりは面倒でしょう?」
「はあ…」
「それに二人の留守中、お祭りの準備が駆くんと深潮ちゃんだけじゃあ、大変ですもの」
「あのう、私もおにいちゃんもいますけど?」
「わかった! ミコトさんと祭ちゃん、どこかへ行っちゃうんですね」
龍が大きく咳払いするが、奏子は意に介さない。
「史緒ちゃんの筆がそう言ってるから…」
「俺、どこに行くんですか」
「えーと、西園寺涼一研究所と西園寺龍邸は終わったから、清流にいったん戻って、それからね。グランフェスタ・ドラゴンブル、西園寺聖人邸、高橋悠斗邸」
「…何をしに?」
「さあ?」
「探し物の続きかしら?」メイが言う。
「真大祭までに戻れるのかな。このタンスを開けて検証しないといけないし…」
「これから行く3か所は二手に分かれればいいんじゃないか。ドラゴンブルへは俺と祭、高橋悠斗邸っていうか、メイの家にはメイとミコト。聖人おじさんちは皆で合流」
「そうだな。そうしよう」
段取りも決まり、ミコトと鈴露は部屋から大きなタンスを運び出した。
* * *
清流旅館へ向かう車の中、ミコトは寝入ってしまっていた。
その胸元には、メイが置いたドラゴちゃんがいる。
ミコトは夢の中で、まだ小さな子供だ。
紗由のひざに抱かれて、話をしている。
「もうすぐおまつり!」
「そうねえ。ミコトはお祭り好き?」
「うーん。すきときらい」
「好きは、何が好き?」
「みんな、おどるの!」
「翔太じいちゃんと、駆パパが踊るものねえ」
「かみさまも!」
「…嫌いは、何が嫌い?」
「かみさま、つかれちゃう。かわいそう…」
「そうか…。そうよね…」
「ばんそこ、はる?」
「そうね。じゃあ、ミコトを、神様に絆創膏を貼る係に任命します!」
「はい!」
紗由とミコトは楽しそうに笑った。
* * *
ミコトは胸の上に圧迫感を覚えて目を覚ました。
ドラゴちゃんの顔が目の前にある。
「うわあっ!」
「“ミコト、オキタ”」
転げ落ちそうになるドラゴちゃんをキャッチし、抱きしめるメイ。
「おりこうさんねえ」
喜んでいるのか、尻尾がばたばたするドラゴちゃん。
「動くんだ…!」
「小説の中だと歩いてたわよ、ぬいぐるみたち、みんなで」
「そうだけど…」
「うれしそうな顔して寝てたけど、いい夢見てた?」
メイが微笑むと、紗由を思い出すミコト。
「うん、すごくいい夢。でも、気になる夢だった…」
「何が気になったの?」
ミコトはメイの問いに答えず、電話をかけ始める。
「龍おじさん? さっきはありがとうございました。…ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな」
電話の向こうで、龍はどうぞとでも答えたのか、ミコトはすかさず質問する。
「前回の赤子流怒真大祭って、やったの?」
ミコトの唐突な質問に、メイと祭がミコトをまじまじと見る。
運転席の鈴露も、振り向きそうになるのをこらえて質問する。
「何、聞いてんだよ、ミコト…清流旅館の大事な祭だぞ?」
「引っかかることがあるんだ。龍おじさんなら知ってるかと思って…」
ミコトは龍への質問を続けた。
* * *




