その20
「かたじけない、白虎よ…」
鳥のぬいぐるみ=朱雀が疲れた声で言うと、カメのぬいぐるみ=玄武もまた荒い息で言う。
「本に助かった」
「しかし、カケラが育つなどとは紗由も言うてはおらぬぞ」不機嫌そうな白虎。
「双ツ宮の姫君が術をかけ忘れたようじゃ。紗由と翔太の葬儀でばたついてたのではあろうが…」
玄武の言葉に、うつむく白虎。
“まこちゃんのせいか…”
「ならば、しかたあるまいのう」朱雀が淡々と言う。
「ところで…」白虎が、朱雀と玄武を見て問う。「貴殿たちの中に詰め込んでおいた、青龍の依り代、通称ドラゴちゃん…ナンバー3と4は、どうやってミコトたちに渡すのだ?」
「その辺に転がしておけ。白虎殿を追っているのだから、いずれ見つける」
朱雀が答えると、いつの間にか、その場に現れたドラゴちゃんが叫んだ。
「“コロガル、ヤダ!”」
その後ろで二号も尻尾をばたつかせている。
「では、どうするのだ」白虎が尋ねる。
「“ピラミッド!”」
「四体でいかに形作るのじゃ。頂点はいかに」
玄武が問うと、朱雀がハッとする。
「元々…ミコトが幼き頃に持っていたドラゴンはどうしたのだ」
「ああ…古の龍の…」白虎が記憶をたどる。「見た目がそっくりゆえ、ドラゴちゃんと同一視しても無理はない」
「ドラゴちゃんは弟龍の依り代だ」玄武が言う。
「つまり、もう一体の依り代は…」
朱雀の問いかけに、皆が声を揃える。
「あそこだ!」
そしてその後、皆が頭を抱えて黙り込んだ。
* * *
「あ、あそこ! ミコトさん、あそこに青い塊が!」
“カタマリ、チガウ…”
ドラゴちゃんの心の声はメイに届かない。
だが、近づいて来たメイは、ドラゴちゃんたちを観察して言う。
「えっと、この子たち、四角形みたいに配置されているわ。中心に向かって皆が両手を伸ばしてる。その中央に何かが来るのかしら…」
「うーん」腕組みして考えるミコトとメイ。
「何か、覚えがあるっていうか…」メイが天を見上げる。
「あ。小説にあったよ、メイさん」
「小説?」
「西園寺保探偵事務所が沖縄に行った時の話だよ…ピラミッドの陣形を組んで…」
「つまり、あともう一体あって、五体で探偵事務所の面々の最強形を表すってこと?」
「うーん…でも、それだと、翔太じいちゃんはどこに行っちゃうんだ? 祭の主催者なのに…」
「違うわ、ミコトさん。探偵事務所の5人が組み上げて復活させるのよ、青龍さまを。その後が旅館の亭主であり祭祀である翔太さんの出番」
「なるほどね。でも…あと一体って、いったい?
「なんか…朱雀さまが喜びそうなおやじギャグだわ」
「…あれ? そう言えば、じいちゃんばあちゃんの祭壇に備えたというか、置いて来た、俺の子どもの頃の遊び相手だったドラゴンのぬいぐるみって…」
「あ…」
「何でだろう。俺、すっかり忘れてた…」
「私も…」
「何か細工されてるのかな、俺たちの思考と行動を制限するような」
「……そんなことができるのって、龍おじさまと…うちのおばあちゃまあたりじゃないかしら。小説を読んだ限りで判断できる能力値からすると」
「祭壇に何かできるとしたら、龍おじさんだろ」
「ミコトさん…私、何だか腹が立って来たわ」
「…ごめん、俺も」
「皆によかれと思って動いているのに、何でそんな、ややこしい手順を踏まされるのかしら。もったいぶったからって結果が変わるとでも?」
「変わる…のかな…?」
「え?」
「俺たちの動き次第で結果が変わるんじゃ。ほら、ゲームシナリオみたいな感じで」
「じゃあ、私たちが今リタイアしたらどうなるわけ?」
「誰かが代わりをするとか?」
「誰が?……私たちの世代の別の能力者…とか?」
メイとミコトは、親戚一同の顔と名前を思い浮かべていた。
* * *
本来の姿に戻った朱雀、玄武、白虎が順に述べる。
「あの依り代は、翔太と紗由の遺影の横に備えられておったな」
「あの後、龍の宮が結界を張った…」
「彼と同等の力を持たねば、結界は破れぬ」
「つまり、依り代を手にはできぬ」
「ミコトとメイが龍の宮と同等の力を得て、あの場所に行かねば…」
「祭までに間に合うのか」白虎がいぶかしげに問う。
「間に合わなくてもよい。それが紗由の願いじゃ」朱雀が答えた。
「だからこそ、最後になる祭は滞りなく執り行わねばならぬのでは」
玄武が答え、やはり朱雀、玄武、白虎の順に述べていく。
「他にも力の強い者はおる。例えば…」
「龍の宮・龍と石の姫・奏子たちの孫の詩音」
「花巻の宮と双ツ君の姫・真琴たちの孫の神楽、もだな」
「聖の宮・聖人と印の姫・咲耶たちの孫の舞もおるわ」
「今さら彼らに代わりをさせろと?」戸惑う玄武。
「若青龍が戻っているなら、このままいっても何とかなろうが…若青龍のことだ、龍殿の調整が済むまで…ぎりぎりまで一条におろう」朱雀が言う。
「仮にミコトとメイがだ、依り代を手に出来たとしても…」白虎が疑問を呈する。
「若青龍が降臨し、一つにまとめ、古の青龍さま復活の依り代とせねば、何の意味もなさぬ」
玄武が言うと、朱雀も言う。
「いや。結局意味をなせるのが、あの二人ということなのであろう…」
と、その時、空気が一変した。それに気づく三神たち。
「いかがいたした!?」
「…! 黄龍さまが…!」
白虎が雄たけびを上げ、空へと舞い上がった。
* * *




