その2
メイが壁の後ろに見つけたのは、立て掛けられた箱だった。
「これって…神箒の箱?」
「大きさ的にはそうだけど、赤い十字が書かれてるってことは、救急箱にも思えるし」
「誰をエイドするの?」
「神様…かなあ?」
「龍おじさま。これ、どういうことなんでしょう」
箱を取り出しながら聞くメイ。
「“ツカレ、トル”」
「ドラゴちゃん! いろいろお話できるのね!」
メイはミコトからドラゴちゃんを取り上げ、ぎゅっと抱きしめる。
「あのー、龍おじさん…」
「好きなだけ持って帰っていいよ」苦笑いする龍。
「ねえ、ミコトさん。私、いいこと思いついたわ」
「ん?」
「ドラゴちゃんを謎解き仲間にしましょうよ」
「え…でも…」
「“サユ、ナカマ”」
「そうかあ。紗由さんと仲間だったのね。ミコトさんは、紗由さんの大事なお孫さんなの。だから、仲間よね?」
「“…ナカマ”」
「よかった!」
メイはゴキゲンな様子で先に進んでいく。
取り出した箱や、棚にあった巾着袋を持って、メイの後を追うミコト。
龍は思った。
このまま紗由の部屋に行って、さらに荷物を運び出すとなると、大き目の車でも用意したほうがいいだろうかと。
と、その時、奏子から電話がかかってきた。
「祭ちゃんと鈴露くんが今来てるの。これから清流に行くけど、ミコトくんたちがいるなら、一緒に帰るって」
「そうか。今、研究所の通路から家に向かってる。待たせておいてくれ」
「わかりました。あとね…小型バスみたいな大きな車で来てるの。まさか鈴露くん、清流旅館に婿入り荷物でも運んでるのかしら…」
「そういうのは石で読めないのかい」
笑う龍に、奏子は少し不機嫌そうに答える。
「石は覗き見に使うものではありません」
「ああ…ごめんごめん。でも、大型車は正解だ。ミコトたちが荷物をいろいろ運び出すからね」
「…史緒ちゃんの書の通りになりそうだわ」
「何が降りてきたんだい?」
「場所が5つ書かれていたの。西園寺涼一研究所、西園寺龍邸、グランフェスタ・ドラゴンブル、西園寺聖人邸、高橋悠斗邸」
「ミコトたちのツアー先になるということか?」
「そうね…今、最初の二つを回ってる。
ドラゴンブルは、翔太くんが当主になる前に、紗由ちゃんと一緒に経営を任された場所。隠し部屋もあるわ」
「聖人の家は、幼い頃、私と紗由が住んでいた家だ。悠斗くんの家は、元々おばあさまの家。私も幼稚園の頃まで一緒に住んでいた」
「真大祭の前に全部回るつもりかしら…もうあまり日にちがないけど」
「祭ちゃんたちがいれば手分けもできるだろ」
「お祭りの準備、駆くんと深潮ちゃんだけでやるのは大変よ?」
「探偵事務所のメンバー招集だな」
「…わかりました」
苦笑いする奏子に、龍もまた苦笑いしながら電話を切った。
* * *
ミコトたちは龍の本宅へ到着した。
研究所からの通路は、中庭へとつながっていた。
「おじさまの家の中庭、こんなでしたっけ?」
「ここはいつもの中庭とは反対側にある庭なんだ。普段、ここへは人を通さない」
「へえ…」
中庭を囲む部屋のひとつは、向こう側の面が一面ガラス張りになっている。
「おじさん。あの部屋カーテンないけど、丸見えじゃないの?」
「向こう側からは鏡張りになってる。中は見えない」
「えーと、向こうを見張るための部屋なの?」
「あっち側の庭というか、テラススペースでダンスの練習をしたりね。だから鏡は一応必要なものなんだけどね」
「ダンス?」不思議そうなミコトとメイ。
「伊勢に行くと、舞わねばならないことがあるものだから…」顔を曇らせる龍。
「ああ…」ミコトがくすくすと笑いだした。
「どうしたの、ミコトさん」
「ばあちゃんが言ってたんだ。にいさまの唯一の弱点がダンスだって」
ミコトの言葉に大きく咳払いする龍。
「おじさまにも弱点なんてあるんですね」
「さあ。こっちだよ。祭ちゃんたちが待ってる」
ダンスの話題をそらし、中庭の一角から出ている通路へと二人を案内する龍。
「祭と鈴露、来てるんですか?」
「君たちを迎えに来たようだ」
「清流旅館でもお祝いしますものね。ピックアップしてもらえて、ちょうどよかったわ」
ふと、通路横の駐車場を見たミコトが言う。
「もしかして、あの車で来たのか、あの二人…?」
「なあに? 鈴露は、もう清流にお引越しなの?」
「奏子も同じことを言ってたよ。鈴露くんは婿入りなのかって」龍が笑う。
「まあ、俺たちも荷物が増えそうだし」
「そうね」メイは気軽に返事をした。
* * *
小一時間ほどで、ミコト、メイ、祭、鈴露による、紗由の部屋の捜索は終わった。
「ねえ…本当にこれ、持って行くの?」
ミコトは目の前の大きなタンスを見ながら、恐る恐るメイに尋ねた。
「だって、全部の引き出しに鍵がかかって開かないのよ?」
「そうだけど…鍵ないし」
「ねえ、この鍵穴ってもしかして…」
何かに気付いたらしい祭を、一同は見つめた。
* * *




