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その19

「龍おじさまがカケラを取り戻しに行っているとは、どういう意味なんですか?」

 メイが朱雀を問い詰めるが、朱雀は答えず、ぐったりとしている。

「朱雀さま!」

「ねえ、メイさん。朱雀さま、様子が変だよ」

「元々、変でしょ」

「そうじゃなくて…普通のぬいぐるみみたいになってる。関節に力が入ってないというか」

「…本体、逃げたのね」苦々し気につぶやくメイ。


「そう言いたくもなりますわよね」

 その声に驚き振り向くミコト。

「おばあさま!」

「ごきげんよう、ミコトさん。メイさんも、ミコトがお世話になって、ありがとうございます」

 丁寧に頭を下げる史緒に恐縮して、動きがぎこちなくなるメイ。

「いえ、こちらこそお世話になっております」


「どうしたんですか、おばあさま」

 ミコトが尋ねると、史緒は困り顔で言った。

「探し物をしに来たの。今度のお祭りのために」

「と、おっしゃいますと?」


「深潮に言われたのよ。赤子流怒の際には、亭主が育てた花を飾るのが習わしで、今回、次の亭主が確定していないから、翔太さんの育てた花、ということになるようなの」

「えっと、今まで飾ってた花だと、“プリンセス紗由”でしょ。ランじゃなかったかな」


 ミコトが言うと、さらに困った顔になる史緒。

「それが、見当たらないらしいのよ」

「見当たらない?」怪訝そうなミコト。

「どちらかに株分けして委託して育てていただいてたんじゃないかって…」


「ランの花…」考え込んだメイは電話を取り出した。「…おばあちゃま? 紗由さんか翔太さんからお預かりしたランの花って、うちにある?…ええ、そう…」


 必死に電話をするメイの姿に、史緒はうつむき、小さく微笑んだ。


  *  *  *


 ミコト、メイ、史緒の3人を乗せた車が正面ゲートから入っていく。

「うわあ…広いお屋敷だねえ」

「ミコトさんちのほうが広いじゃない」

「うちは旅館だし」笑うミコト。

「お伺いするのは久しぶりですわ」辺りを見回す史緒。


「祖父母がちょうど帰宅していてよかったです」

「本当、タイミングがよかったわ。ありがとう、メイさん」

 微笑む史緒につられるようにニッコリ笑うメイ。

「ねえ、おばあさま。そういうのは“書”で降りて来ないの?」

「“書”は“命”のお勤めを補助するもの。失せモノ探しのツールではありません」

「…すみません」てへへと笑うミコト。


「あの…」メイが素朴な疑問を呈する。「ということは、真大祭は“命”のお勤めとは直接関係がない事柄なのでしょうか」

「…“巫女寄せ宿”がすべて祭を催しているわけではありませんし、直接かどうかと問われれば、関係ないということになるのでしょうね」


「赤子流怒にこれだけ皆さんがご協力なさるのは、清流旅館を大切に思うお気持ちということなんですね」

「うちの場合は娘の嫁ぎ先ですし…まあ、皆さま、親戚筋がほとんどですから」

 史緒の答えを聞きながら、メイは何となくはぐらかされたような気分になった。


「雀のお宿にはお祭りあるの?」

「朱雀さまの羽の舞とか? ないと思うけど…」言いながら笑いをこらえているメイ。

「そう言えば、朱雀さま、どこに行っちゃったんだろうね」

 ミコトは、メイが抱きかかえている、ただのぬいぐるみになってしまった朱雀の頭を撫でる。


「おばあちゃまのところかしら…」

「華音ちゃんの?」

 史緒が尋ねると、メイはハッとして答える。

「やだ、私、何でそんなこと…あ、駐車場は地下ですので、エレベーターで2階まで上がって下さい」

 メイは車を降りると、小走りにエレベーターに駆け寄った。


  *  *  *


 リビングに行くと、すでに華音がお茶の用意をしていた。

 窓際には、ランの鉢植えが20ほど並べられている。

 その様子に目をぱちくりさせるメイ。


「おばあちゃま…こんなにたくさん…品評会でもする気だったの?」

「お預かりしていただけよ」

「何で花を預かるの?」

「ちゃんと育つ前に、鳥や猫に食べられちゃって、紗由ねえさまが困ってたのよ」


 その言葉に、朱雀とびゃっこちゃんが、むしゃむしゃとランを食べる光景を脳裏に浮かべるメイ。


「びゃっこちゃんは大丈夫かしら…」

 ミコトの足元に置かれたゲージに目をやるメイ。

「いない!」

 ゲージの扉は開かれ、びゃっこちゃんは、カメのぬいぐるみを口にくわえ、鳥のぬいぐるみを背中に乗せた状態で、リビングのドア近くに立っていた。

 メイの声に反応して、開いていたドアから駆け出すびゃっこちゃん。

「びゃっこちゃん!」

 とっさに追いかけるメイとミコト。


 だが、その様子に動じるでもなく、華音と史緒は会話をしていた。

「こちらでしたら、温室もありますものね」史緒が言う。

「ええ。大斗くんが、いろんな薬草を育てるのにいくつか作ったみたいで」

「思わぬ使い道があってよかったですわね」微笑む史緒。

「それにしても…びゃっこちゃんは相変わらずね」

「ちゃんとミコトたちに、渡してくれるといいのだけれど…」

 二人は微笑みながら、紅茶に手を伸ばした。


  *  *  *


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