〜明日木の下で〜
五日後の昼。
大樹の下にシの神はいた。
狼はここ数日で賢明に考え、赤ずきんとばらばらで来ることにした。
「これはこれは狼くん。久しぶりだね。君の一番大事なものは何かわかった?何も持ってきていないようだけど?」
シの神はとぼとぼ歩いてくる狼の姿を見つけ、一人で来た事に気づき、しらじらしく驚いたようにみせる。
反応を面白がろうとしたのに、狼は本当に真面目だ。呆れたようにこちらを見ている。
なんというかつまらない。
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天界ではイロの神とハニの神とホヘトの神が、水晶玉に向かい合うように話している。
「死神は意地悪だね。この狼はあの小娘が好きなんだろ?」
ハニの神がシの神の様子に、呆れていう。
「そうだね〜。こないだ一番大切なものがあの赤ずきんとかいう小娘だって事も、自覚したみたいだからね。」
水晶玉から目を離さず、イロの神はハニの神の話を肯定する。
「そうとも限りませんよ。彼女を守ろうと、嘘をつくかも知れません。」
「でも、嘘をついたらこいつは死ぬってわかってるんだぞ?」
ホヘトの神の意見にハニの神は、すぐさま反対した。そして、ホヘトの神も確かにこのバカな狼ならやりかねないと思った。
二人が話しているうちに、水晶玉には期待を持って口を開く狼が写っていた。
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「まだ呪いは解けていませんから、少し経って俺の一番大切なものは、自分で来ます。」
シの神は内心鼻で笑った。呪いが解ける上に、寿命は伸びるなんていう人工的な都合のいい話が、そうそうあるかと。
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「ほら言ったじゃないか。」
「いいねぇ。恋って。」
「賢明な選択ではありませんね。これでもう、悲劇は避けられなくなりました。」
狼の言葉に、神々は口々に呟く。
しかしハニの神は自分の意見を否定され、またもや反発する。
「いいんじゃない?悲劇の終わり方も。想いを伝えずに死ぬよりは。」
「それもそうだね〜。」
イロの神も、水晶玉を見ながらなんとなく肯定する。
「あなた方は客観的過ぎます。もっと狼の気持ちをわかろうとは思わないんですか?」
ホヘトの神は、主人公目線になる読み方が好きなのだ。
「ホヘトの神は感情移入し過ぎだよ。」
「これくらい客観的じゃないと、エンディングを見てられなくなるよ?」
イロの神とハニの神が諭す。
そしてみんな知っている。イロの神もハニの神もホヘトの神も、シの神と同じようにそう都合のいい話が存在するわけがないとわかっている。
話はなんであれ、必ず終わるものなのだ。
だが同時に、ホヘトの神は馬鹿な狼には仕方のない事なのだと言っているのだ。