〜お互いの認識〜
偶然、いつもの場所で、いつもの時間に赤ずきんと狼は同じ人にもらった、同じ本を読んだ。
「おばあちゃんのお見舞いに行くわ♪…あるところにいる赤ずきんという少女は、心優しい女の子で、今日はおばあさんの家まで行くところでした。」
赤ずきんはひなたで。
狼は日陰で音読をする。
「おいしそうな人間だ。婆さんとあの女の子を食べようじゃないか。…おばあさんの家の近くの森に住む狼はお腹が空いていました。そんな時通りかかった、赤ずきんはたいそうご馳走に見えたのです。」
「木苺だわ!折角だからばあちゃんの好きなジャムを作りましょう。」
「狼はしばらく赤ずきんを観察し、おばあさんの家で待ち伏せする事に決めました。」
「わあ⁉︎狼だわ!」
「パクリ、ゴクリ。狼はおばあさんを食べてしまいました。」
「おばあちゃん。お見舞いに来たのよ。…赤ずきんがおばあさんの家に着くと、待っていたのはおばあさんに化けた狼でした。」
「赤ずきんよ。美味そうな小娘だ。パクリ、ゴクリ。…そうして狼は、赤ずきんも食べてしまったのです。」
「キャーー…赤ずきんの悲鳴を聞きつけやって来たのは一人の狩人でした。おばあさんの家に上がってみたのは、満腹になった狼。」
「バンッ‼︎…狩人は狼を殺し、狼のお腹から赤ずきんとおばあさんを助け出しました。」
「こうして赤ずきんとおばあさんはしあわせに暮らしたのでした。」
「「おしまい」」
読み終わると、なんだか憂鬱な気分になる。
話があまりに似過ぎている。
もしも話どうりなら…。いろんな考えが巡る。
しばらくの間が空いた。
「赤ずきん。私もそう呼ばれているわ。」
「ピヨ助の言ってたことが本当なら…」
もし本当なら、この感情はなんだろう。
口に出して、頭が整理された。
すると今度は、気持ちが整理されていく。
「「私は[俺は]狼を[赤ずきんを]好きになってしまったの?」」
「…絶対に離れたくないなんて思っちゃってる。」
話どうりなら、そんな事が可能であるわけがない。
「この話だと、いつも木陰にいる狼さんが私を食べる。」
「見つかった俺が狩人に殺される。」
「「ああ…シナリオが変わってくれればいいのに」」
本を見ながら同時に溜息をつく。
誰も返事はしない。
解決策も見当たらない。
風が木々を揺らし、去っていく。ただそれだけ。
「…でも、私が悲鳴さえ上げなければ、きっと。」
「たとえ、俺が死んでも赤ずきんは幸せになれる。」
自己満足な解決策が見えた。