〜神々の観賞〜
神々は天空の館で、水晶玉を見ながら会議をしていた。
「全く、恋とはいいですね」
「我々には遠い世界ですよね」
会議といってもほとんど、真面目なものではない。特にイロの神とハニの神は、最近、赤ずきんと狼の様子を水晶玉に写しては黄昏ている。
他人の恋愛についてみるのが、長生きし過ぎの特定の神々にとっての数少ない娯楽なのだ。
「恋愛小説読んでる気になってるのはいいですが、『赤ずきん』のエンディングが一年も先延ばしというのは、どうなんでしょうか…。」
エンディングは話の終わり。つまり死を意味する。しかし、『赤ずきん』の狼はまだ死を迎えていない。これは輪廻を管理する彼らにとって、大事件なのだ。
比較的現実的なホヘトの神は、ちゃんと焦っている。
こういう場合、焦るべきなのだ。
なんとか話し合いに参加させようと、まずはイロの神の前で手を振るが、返答はない。
「……イロの神?…イロの神!」
「は、はい⁈いかがした、ホヘトの神、大事ないか!」
イロの神は寝坊した学生のように、水晶玉から急に目を離し、頭を勢い良く持ち上げる。
イロの神から最も被害を受けたのは、後ろにいたホヘトの神だ。いつもの事だと割り切って、ひたいを擦りながらゆっくりと立ち上がる。
そんなホヘトの神の様子を見て、イロの神は助け起こす事さえしないが、ちゃんと心配はする。だがいつもの事ながら、自分に非がある事には全く気づいていない。
「うるさいぞ、イロの神!せっかく水晶玉の様子に浸っていたのに!」
ハニの神は水晶玉から目を離し、イロの神を睨む。
「ほ、ホヘトの神のせいだ。私は悪くない。」
「なんですと?イロの神とハニの神が話し合いに参加なさらないのが悪いっ!」
この言い争いも日常茶飯事だ。
静かにドアから入って来て、誰にも気づかれる事なく入口に寄りかかっていたシの神は、見飽きたとばかりに、仲裁に入る。
「要はぁ、色恋沙汰の好きなイロの神と、いつもはにかんでる癖に話を聞かないハニの神が、一年もエンディングを迎えていない狼と赤ずきんの恋を、どうするかっていうほとととしてばかりのホヘトの神の提案を聞かないのが嫌だってことみたいだよー」
シの神はハニの神を真似ていう。
シの神は上出来だと思ったが、それにつられて笑う者はここにいない。だからこの会議はつまらないのだ、とシの神は思う。
「あなたもですよ。いつもふらついてばかりで会議に出ず、見つけると『面倒な魂が登ってきたから浄化してた』って証言してばかりのシの神。そんなんだから、死神って言われるんです」
だって会議なんてつまらないし。
基本話し合いにさえならないし。
人間観察よりも直接偵察した方がいいし。
下界に降りて生き物達を馬鹿にするの楽しいし。
以上がシの神の主張である。だがそれを口に出すはずもない。
「この狼と赤ずきんは、安らかに眠らせてくださいね?」
「狼の罪は帳消しにしてやってください」
こんな風に神なのに自分に、毎度毎度無理なお願いをする。そのお礼をするわけでもなく。つまらない、気にくわない。
「みんな揃ってやだなあ。狼は生きる為に他の生き物を殺してるんですよ?食物連鎖は仕方のないことです。でも…これからの事は知りませんよ~?」
「こ、怖いです」
「さ、さすが死神…」
ちょっと睨めばすぐに、怖がるくせに、こいつらには学習能力という物がない。これも気にくわない。
「彼の前では言わない方がっ、ほら」
「眼力…が…」
「やめなさい。神らしくないですよ。」
あなた達の方がよっぽど神らしくないと思ったが、口論になる前になんとか話をそらす。
「ああ、話し合いですよね?」
作り笑顔を壊さないように、細心の注意を払う。
「私は、何かの方法で彼らにキーワードを授けるべきだと思います。」
でも彼らがこんなに優柔不断だからこそ、案を出せばみんなが称賛してくれる。これは好ましい。だから暇なときに来て、内心馬鹿にする。おもしろい。これがシの神の娯楽だ。
「それは良いですな。」
「とてもいい事です。」
「でもどうやって?」
「「あっ」」
「私に任せてください。考えがあります。」