〜出会い[呪いの始まり]〜
あの日々から早一年。
また木苺が花を咲かせる。
この頃、おばあちゃんは寝たきりになっていた。
「私、木苺を採ってくるわね。」
「もうそんな時期かい…。」
おばあちゃんの顔に笑顔は少なくなり、時折、こんな寂しそうな顔をする。
「うん。今朝散歩道に見かけたの。」
私は少しでもおばあちゃんを励まそうと、毎日、朝早くご飯を作り、山道に散歩に出かける。
そこでかわいい花や、木の実、良い香りの薬草を取って来て、部屋に飾ったり、ご飯に加えてみたりする。
おかげで花瓶は華やかだ。薬草の知識も増えた。
「そうかい。気をつけて行っておいで。」
だけどおばあちゃんは、少しだけ微笑むだけで苦しそうに悲しそうに遠くを見つめる。
そんなおばあちゃんを残し、森に出かける。
散歩道を少し行くと、木陰に生えている木から赤い実が顔を出す。
道の裏へ行くと大きな木が、木苺の実をたくさん実らせていた。
「わあ!こんなところがあるなんて、知らなかったわ。」
あたりを散策すると、もっとたくさんの木がある。
「これならジャムがいっぱい作れる。おばあちゃんは喜んでくれるかしら。」
赤ずきんは嬉しくて、一粒、口に含んでみる。
「わあ、甘い。丁度食べ頃だわ。」
慣れた手つきで鼻歌を歌いながら、木苺を籠に集める。
だがふと手を止め、考える。
「あれ?砂糖はどれくらい残ってたかしら?そろそろまた街に買いに行かなくちゃ。」
その時、木苺の木の奥にある木が、そっと揺れた。
「誰?」
鹿さんかしら?
もうお友達の動物さんかしら?
そんな気で言ってみた。
「お願いします…お願いします、お願い致します!神様!どうか、見つからないようにください!」
それなのに、何かこもったような話し声がするのだから、不思議だ。
「誰?何をもぞもぞ言ってるの?」
ゆっくりと近寄ってみる。
「…よかろう、哀れな狼よ…」
威厳のある声が宙に響く。
身の危険より、今日は狩人がいないのかという興味が勝った。
さらに近寄り木を掻き分けると、一匹の狼が見えた。
「狐?いえ狼?なぜ狼がここ…」
赤ずきんがそこまで言ったところで、空から何かの魔法が降り注ぐ。
狼は手を強く握って意識せず目を瞑る。
赤ずきんは回れ右して、再度木苺を採り始める。
***
**
*
「何があったんだ?」
「あれ?何を考えてたんだけっけ?」
「見つかっちゃったのか?」
狼は片目をそっと開く。
そして後ろからの視線がないと気付く。
赤ずきんは、木苺を採っている。
「あっ!」
「えっ⁈」
「砂糖を買うってことだわ!」
「「よかった~!」」
明らかにトーンが違う。
「よかった、まだこうしていられるんだ」
あの娘の鼻歌が聞こえる。幸せな時間に浸りながら、木陰に座る。
「今度は見つからないようにしなきゃ。」
狼は人知れず呟く。
去年の中旬。新米狼として、群れを追われた俺は何日もさまよってここに来た。
あの時は、腹ペコだった。休まず必死で追っ手を振り切って、倒れそうだった。それで仕方ないからここで寝泊まりしたら、この森が住みやすいことがわかって、住み着いてる。
「あの娘はかわいいよな」
狼の趣味は赤ずきんを木陰から覗くこと。
今まであとをつけて、失敗したことはない…はずだった、のに。
人間の娘だってことくらいは、もちろん知ってる。だけど、気になってしまうのは仕方ないと思う。でも、狼の姿なんて見たら、怖がるに決まっている。逃げられたくない。
と、いうわけで未だ後を付け回している。
「俺、ストーカーか?いやいやいや」
まあ取りあえず、赤ずきんが狐と間違えてくれて良かった。一応安心だ。
「ピヨピヨ?」=悩み事?どうしたの?
「おーピヨ助!」
ピヨ助だけが、俺がここに来ている事を知っている。俺の唯一の友達だ。
「あのな……」
狼はピヨ助が来ては、あの娘がどれだけかわいいかを説く。ピヨ助は飽きてきたように、時折赤ずきんを見ては、羽の手入れをしている。でも狼は気にしないで赤ずきんを見ながら話す。
「…というわけでさ。って、ここ毎日同じ話だな。ピヨ助、お前、なにか話せないのか?」
「ピヨピピヨ」=あの娘は赤ずきんって呼ばれるてるよ
「そういう事じゃなくて、他の話。なんかないの?俺、退屈だよ~」
「ピヨピヨー!」=話のネタがない。