〜今宵木の下で[さてさて私は誰でしょう?]〜
「物語では赤ずきんと言います。」
「初めまして。シの神です。」
赤ずきんはご存知でしょう?とばかりに話す。シの神は迷う事なく、初めましてという。
赤ずきんは思った。こんな立派な神様がなぜ私達の鍵となるのか。
「神様ですか?…あれ?シの神?…シの…神?」
シの神は怪しく笑う。
「し、死神⁉︎」
「最近ではそのあだ名が流行っているようですね。確かに命はとりますが、悪意はないんですよ?」
弁解なんかする気がないのが一目でわかる。そんな顔でシの神は微笑む。
それを見ていた狼、イロの神、ハニの神、ホヘトの神は気色悪いと目を背けた。
一方赤ずきんは、珍しく動揺していた。
死神は命を取る。呪いを解く前に殺されるかもしれない。なりより、狼に会えないかもしれない。それが一番怖かった。
「本当に呪いを解いてくださいますか?」
「お約束は出来ませんが、お手伝いはしましょう。」
騙された。赤ずきんの直感だ。
「そんなのっ」
「狼は知っているはずですが?」
逃げるべきだ。
「私、帰ります。」
綺麗に一回転して背を向ける。
「信じてもらえなくても別に構いませんが、狼は死にますよ?」
木陰の狼の真裏に寄りかかり、もったいぶって言う。
狙い通り、赤ずきんは振り返る。
「なんですって?」
「一番大切なもの。それをここに連れてくるように言ったのは私ですが、あなたを選択したのは彼です。」
「嘘よ。」
「本当です。」
「嘘だわっ!いくら神様でも、変な嘘はやめて頂戴!」
「…あっ!」
狼は木の影から抜け出そうと、一歩踏み出す。
違うんだ。
ごめん。
傷付けるつもりは。
俺のせいだね。
言えば良かったね。
言葉が喉まで溢れてくる。でも、ここで話せばきっと俺たちは死ぬ。
…死んでほしくない。違う、俺が…死にたくない。
そうだ、俺は臆病だ。
今までは全部夢だったと思えば、赤ずきんは苦しまない。全部覚えのせいだ。
「あ〜〜!俺の馬鹿っ!全部俺のせいだ!」




