〜プロローグ〜
「やめて!打たないで~!」
思い切り叫んだ。
死んでほしくない。やっと会えたのに。
その気持ちだけで、起こしたシナリオから外れた行動。
木に止まっていた鳥が────飛び立った。
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遠い遠い昔の、ある城の裏。
長い間、自然の手入れだけがされた山に茂る森の奥深く。
一軒の山小屋がある。そこに住むのは、ひとりの赤い頭巾を被った女の子とそのおばあちゃん。
女の子は幼いが働き者で、森の生き物から『赤ずきんの小人』と呼ばれていた。
これはそのかわいらしい、赤ずきんの小人が少しだけ大人っぽくなった頃の話である。
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おばあちゃんの看病に、私は短期間と言われ、ここに住むことになった。
ここに来た時には、背伸びで取っていた木苺はとうに越し、三年間が短いとしみじみ感じさせる。
「いつもありがとうね。」
もう少しで、おばあちゃんの背にも追いつく。
「いいのよ。お料理は楽しいもの。」
籠に山盛りに乗った木苺を、お鍋に移す。
ここに来て、初めておばあちゃんに教わった料理。分担作業で進めるジャム作りは、もうこの家の恒例行事だ。
「おはよう。」
甘い香りに引き寄せられ、リスに、鳥に、狐に、鹿。いろんな動物がやってくる。
街まででないと人に会えないこの土地で、もはや彼らは友達だ。
「さてと、ジャムサンドを食べようか。」
おばあちゃんは昔から、ジャム入りサンドイッチをいくらか多めに作って、動物達にあげていた。
おばあちゃんの笑顔、動物の嬉しそうな鳴き声、木苺ジャムの甘い香り。この全てが私の好きなものだ。