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九十五話 過去 ③

「はああ!!」

「ふん、甘いな」

「な、ぐうっ……!」


 斬りかかる剣を刀で滑らせ、反撃の裏拳の打ち込まれる。何とかガードはしたものの、完全ではくダメージが入る。


「踏み込みが足りん。腕だけ振る剣など簡単にいなされるぞ。今みたいにな」

「はあ、それが出来るのは師匠ぐらいだよ」

「ふふん! まあ確かに私は最強だ。だが、それを言い訳に使うのは関心せんな、王子ルーカス?」

「はいはい、すみませんでした。最強の師匠コウジ様」


 あの前代未聞の侵入から十年の時が過ぎた。その時の流れで少年は青年となり、青年は大人となった。身も心も共に成長し、力を身につけ、力を昇華させてきた。

 師と弟子。共に歩んできたこの十年。


「多少は強くなったがまだまだだな。早く私をこの職務から解放してほしいものだ」


 あの日からコウジは、第二王子ルーカスの剣術指南役として職務を全うしてきた。侵入者であるコウジにそんな大役を任せることは、当時大きな反発が城内で起こった。が、それもその実力を持って黙らせた。


 そして、この十年でさらなる高みへ至り、今となっては、自他共に認める最強と呼ぶに相応しい実力を身につけた。


「解放されたらただの無職になるけどいいの? もちろん、城からも追い出すからね。働かざる者食うべからずってね」


 そして、それは弟子である彼にもきちんと受け継がている。まだまだ成長途中だが、今の時点でも既に、彼の相手となるのはコウジや他の極一部の人間だけ。


「口だけは立派だな。構えろ、続きを……」

「そろそろ休憩を取られてはいかがですかな?」

「あっ、シバルト」


 稽古する二人へ、音も無く近づいてきたのは伝説の暗殺者とその存在が噂されるシバルト。

 

「気配を消して近づくなと言っているだろう、シバルト」

「申し訳ありませんな。ですが、私に気付かないようではコウジもまだまだなようで。休憩後の私が行う修行に混ざりますか?」

「要らんわ」

「それは残念。まあ、こんな師匠は放っておいて、ルーカス様はきっちり学んで下さいませ」

「うん、分かってるよ。……でも、おかしくない? 一国の王子が暗殺術を学ぶなんて」


 白髪が混じりだしたシバルトはこの十年で現役から退いた。若き頃より闇に潜み、王国暗部部隊で第一線で活躍したシバルト。今では、その経験と技を次世代へと伝える指導者の立場へと。


「暗殺術を学ぶことで、自身が狙われた時に対処しやすくなりますので。何も暗殺者になれとは申しておりません」

「いや、まあ、そうだけど……」

「ふっ、何事も学んで損な事などない。そして、それは武術や学問だけではない。遊びもだ。どうだ、ルーカス。街へ繰り出し夜の……」

「あらー? 随分楽しそうなお話しをしているのね? コウジ?」

「うっ、イザベラ……」


 二人へ声をかけたのは、長い青き髪が特徴的な女性、イザベラ。そして、その後ろには鎧を纏いし騎士が随伴している。


「ほら、お話し続けていいのよ?」

「いや、別に続ける程の話じゃないさ」

「あらそう? まあ、何でもいいけど、私がルーカスを殴ることにならないようにしてね」

「は、はは。そんなことになるわけないだろう? なあ、ルーカス」

「……僕は何も言ってない」


 イザベラの圧に二人して屈する。この十年で二人は学んだ。世の中には怒らせない方がいい人間もいると。


「まあ、いいのよ? 遊びたければ遊んできたら。その代わり、私も同じことするから。そうね、レオニクスにでも相手してもらおうかしら」

「なっ! 俺達しか居ないからって滅多な事言わないで下さい! あなたはいつもそうです。強気なのはいいですが、言っていいことと悪いことがあることくらい……」

「ああもううるさい。冗談じゃない。こんなカタブツだったかしら?」


 後ろに控えていた鎧の騎士はレオニクス。彼もこの十年で大きく成長した。力も騎士としての地位も。今では王族親衛隊として、主にルーカスとイザベラの専属護衛として活躍をしている。


「まあまあ、レオニクスも結婚して奥さんに尻に敷かれてるからね。怖くて怖くて仕方ないんだよ」

「ふっ、無様だな。レオニクス」

「うるせえ! お前もさっさと相手見つけろコウジ!」


 レオニクスはこの十年で家庭を持った。尻に敷かれつつも幸せそうな彼を見て、結婚もいいものかと考えたことあったが、そんなことになりそうな影もないコウジ。自分のポリシーが邪魔をしているようで。


「そろそろよろしいですかな? これ以上の休憩は午後の予定へ差し支えるかと」

「ああ、午後からは西地区の視察だったね。で、そのまま会合。向こうで泊まることになるから、帰ってくるのは明日になるよイザベラ」


 ルーカスは第二王子としての職務をきっちりと遂行している。日々、己の鍛錬も欠かすことなく続けているが、それ以上に王族としての職務を。


「真面目だなお前は。もう少しサボることも覚えた方がいいぞ?」

「そんなわけにはいかないさ。みんな国の為に頑張ってくれているんだ。少しでも彼らの生活を理解し、良くなる様にするのは僕の義務だよ」


 実際ルーカスは民の為に職務を全うしていて、民からの評判も高かった。優れた頭脳も持つ彼は少し視察するだけでも、すぐに問題点や改善点を見つけ出し、それを解決までしてくれるのだから、民からしたら有り難いこと他ない。


 人当たりも良く、能力にも優れるルーカスは民から愛され、次期王にと期待する声も多い。その民の期待に応えようと、ルーカスは今日も職務へと励むのだろう。


「はあ、ご立派なことで」

「師匠がちゃらんぽらんだから、弟子はちゃんとするんだよ」

「言われているぞ、シバルト」

「どう考えてもあなたでしょう……」


 ハハハと楽しそうな笑い声が響く。この十年という月日は、ただ彼らの力を強くしただけではない。お互いの信頼関係も深めていた。彼らの中に誰かを騙したり、貶めようとする者などいない。


 

 この時までは。




「………………チッ」


 その様子を忌々しそうに見る男がいた。

 この十年で彼も成長を遂げた。弟とは違う成長を遂げた兄マーカス。

 彼もまた秀でた能力を持っていた。

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