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八十六話 探し出せ!馬鹿師匠ズ! ③

「……シオン」

「よぉーおこちゃま。将来の為に今からお勉強ですか?」


 凍て付く空気の中現れたのは、そんなもの気にする訳がない影。空気を読んだ上で、空気を読めない行動をするのに定評があるシオンの登場だった。


「……面白くないんだけど」

「そうか? 俺は面白かったぞ。特にお前がオロオロしてた時とかな!」


 怒るリンを楽しそうに煽っていくシオン。今だけは止めてくれと思うが声に出せず、ハラハラとしながら凍っているミイナ。三者三様の表情があった。


「なに? チョン斬られたいの?」

「ナニを? おお怖い怖い」


 さらに煽る。いったい何が目的でこんなことをするのかと思うミイナだったが、考えれば目的なんて無いんだと気づく。目の前の人間はシオンだったと。


「……邪魔しに来たなら帰ってよ。っていうか今までどこ行ってたの」

「どこ行ってたもねえよ。今の俺は囚われの王子様なの。暗い暗い地下牢で、お姫様が助けに来てくれるのを今か今かと待ってるのに一向に現れねえ。しょうがねえから、こっちから出向いてやったってわけ」


 はあーやれやれと囚われの王子様はお姫様達に呆れた目を向ける。いつになったら来るんだ。ま、来ねえこと分かってたけどな、と。


「囚われ……?」

「そ。囚われの王子様。悪いお義父さんに捕まり、地下牢に囚われの身となった可哀そうな王子様。暗くて静かな地下牢で、寝心地のいいベットに三食食事付きの劣悪な環境に囚われた可哀そうな王子様」

「それただのホテルじゃないの」


 地下牢ということを除けば、これ以上にない程の高待遇に囚われているのではと二人して思う。それを口に出させるか出せないかは師弟の差。


「あ、そうだ。シオン、さっき逃げたあの男ここへ連れてきてよ」

「あの男?」

「……ボクの胸揉んだやつ」

「あー撫でたやつな。残念だが、無理」

「は?」


 サラッと訂正しサラッと返答。考える気も無く、そもそも考える意味が無いと言う感じに。


「今の俺は囚われの身なの。自由に外出なんて出来ない訳」

「は? してるじゃん」

「俺の足元見てみろよ。影ねえだろ。お前の前に立ってる俺は影分身。分身は影魔法使えねえの」


 言われて見ると確かにシオンの足元に影は無かった。二人の前に立ってるこのシオンは影分身らしい。ただそれ以外ではまったく見分けがつかない。見た目も中身も。


「本体は今ベットの上ですやすやだ。だから、残念だが俺じゃ何もしてやれねえ」

「じゃあ、何しに来たの?」

「そりゃ保護者として迎えに来てやったのさ。未成年の女二人が、あろうことか風俗街なんてとこに行くなんて馬鹿なことしてんだからな。買われそうになって、そして、挙げ句の果てにこんな騒ぎを起こす。もう叔父さんドキドキハラハラよ」


 いつ二人の叔父さんになったのだろうか。誰も血縁関係が無いなどとかは今更シオンにツッコんでもしょうがない。相手はシオンだ。


「ってな訳だ。これ以上面倒事を起こさず、お子様はさっさと帰った帰った。こんなところにお義父さんはいやしねぇよ」

「じゃあ、教えてよ。師匠はどこにいるの?」

「言えるわけねえだろ? 言ったら殺されちまうっての。まあ、あれだ。お前らはもう少し勉強すべきだな。王都の西の端っこに古本屋があるから、そこで本でも買って読んどけ。『力と嘘』って本がおすすめらしいぜ」

「は? 本なんて要らないし。そんなことより師匠の……」

「じゃーそう言うことで。俺は大人しく快適な牢屋に帰って、囚われの王子様になりまーす。勉強しろよーお前ら」


 そう言うとシオンはフッと消えた。影分身は解かれ元の影となり、本体のところへ戻っていったのだろう。


 シオンが消えた後には、胸にモヤッと影が差す者と、ホッと胸をなで下ろす者が居た。

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