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八十五話 探し出せ!馬鹿師匠ズ! ②

「……居そうだよね……」

「た、確かに居そうですが駄目です! こんなところ私達がいちゃ駄目です! こんな、風俗街なんて!」


 街の入口で全力で引き止めるミイナ。ここは正しく大人の世界。女性二人、しかも未成年が居ていい場所な訳がない。大人の男の為の街、風俗街。


「で、でもぉ……。師匠もだけど、シオンもいるかもしれないよ……?」

「え、シ、シオンさんも……?」


 否定していたミイナの勢いが弱まる。でも、だってなどとグダクダするのはいいが、入口とは言えここはもう既に風俗街だ。


「……いくらだ?」

「え? なに?」

「二人でいくらだ?」

「え、え、なにが?」

「……五万でいいか?」

「ご、五万?」

「リ、リンさん! 行きますよ!」


 入口でグダる二人に男が声をかけてきた。突然の当然の結果にうろたえるリン。予想出来た結果に対応出来ないリンに呆れつつ、リンを引っ張りミイナは走り出した。


「ハァハァ……」

「い、いたいミッちゃん……」

「ご、ごめんなさい。でも、駄目ですよ。あんなところ」 


 ミイナに引っ張られ二人は風俗街から離れていく。だがしかし、まだリンの目は向こうから離れない。


「だ、だっていそうじゃん。二人共男だし……」


 確かに二人共性別は男性である。居てもおかしくはない。それに一日中探し回って見つからなかったということは、こういう探していない所に居るということ。可能性があるぶん諦めきれないのはミイナも理解している。


「いや、そうですけど……。……分かりました。じゃあ、私が行ってきますから。リンさんはここで待っていて下さい」

「ええ!? ミッちゃん一人なんて危ないよ!」


 未成年の女性が一人だろうが二人だろうがここではほぼ危険度など変わらなそう、むしろより注目を集めて危険かもしれない。

 年齢的にも色々と一番危ないリンがミイナを心配する。ありがた迷惑な感じもしなくはないが、幼くとも彼女は師匠なのだ。


「やっぱりボクも行く! 大丈夫! 何かされそうになったらチョン斬ればいいんでしょ?」

「……いや、平和に行きましょうね」


 未成年で女性でも戦力的には問題無い二人は覚悟を決め戻って行った。




「すいません! チョビ髭でデッカくて変な服着た人と真っ黒の人見ませんでしたか!」

「あん? いや、見てねえけど」

「ありがとう! よし、次!」


 覚悟を決めた二人は早速聞き込みを開始する。ここでは自慢の目や耳も逆効果。見ざる聞かざる余計なことを言わざるで突き進む。とはいかなかった。


「いやいや、ちょっと待てよお嬢ちゃん。人に聞くだけ聞いといてそれで終わりか?」

「え? ありがとうって言ったよ?」

「ここじゃ感謝は言葉じゃなく行動で示すんだよ。ほら、脱げ」

「は? 何言ってんの?」


 聞き込み一人目から面倒事に絡まれてしまう。


「女だからって手出されねえと思ってのか? 俺は気が短えんだ。さっさとしねえと殺すぞ」

「は?」


 男はリンをただの少女と思っているのだろう。だが、もっとよく見るべきだった。顔や体だけでなくもっと細部を。腰に得物がぶら下がっているのを。

 そして、苛ついたリンの手が腰へと向かうその時、


「よーほぉ。お? なんだ? 喧嘩か? やれやれぇ! いいぞぉ〜やっちまえー! 喧ウヒぃく! かはいあはははははっ! どばならうぃほへへへへぇ!」

「な、何この人!?」


 奇人が割って入ってきた。


「てめえ……、レオニクス。何の用だ?」

「よぉー? よーよおー知らねえよー!! よぉーYo! んははははあ!」

「うっ、くさっ。酒くさっ」


 見ても聞いても嗅いでもどれでも分かるまさに酔っ払い。典型的な酔っ払いに敵も味方もない。自由に暴れて自由に荒らして場を乱す。


「……チッ。シラケたぜ」

「い、行きましょうリンさん……」


 だが、今回はそれが良い方向へ。酒臭い乱入者により場の空気も変わり、男も二人も足早に場を離れようとする。酔っ払いには絡まないのが一番と判断したのだろう。賢明な判断だ。


「あ、おーい! 待て待てぇ! まだ俺のYo!が終わってねえよぉ!?」

「は?」


 だが、それを許さない酔っ払い。そして、呼び止めて振り向いたリンへYoを。


「カワイイ子にはパイTouch!」

「へ?」


 ペタッと酔っ払いの両手がリンの両胸へ。予想だにしなかった出来事。されたリンも見ていたミイナも絡んできた男も呆気にとられ固まった。


「Yo!が済んだから帰るヨウ! グッバイィー!!」


 そんな中一人元気な酔っ払い。ヒュンッと颯爽に走り出し、千鳥足なのにあっという間に消え去ってしまった。


「………………な、な……、なんなのあいつーーー!!!?」


 突然の予想外過ぎることに呆気に取られていたリンがようやく叫ぶ。だが、時すでに遅し。あいつはもう居なくなっていた。


「な、あ、あいつボクの、む、胸触って、は、な、なんなのあいつーーー!!!」


 混乱のあまり同じことを叫び続けるリン。甲高い叫び声が辺りに響き渡る。その声に多くの人が引き寄せられ、なんだなんだとちょっとした騒ぎになり出している。


「リ、リンさん、落ち着い……」

「ぎゃあぎゃあうるせぇ! そんなに殺されてえのかクソガキ!!」

「なんっ、…………………………は?」


 叫ぶリンへさっきの男が怒鳴つける。なんとか落ち着かせようとしていたミイナの顔がそれを聞いて歪む。それは、怒りの矛先が自分に向くだけの愚かな行為になるだけだと。


「…………そう言えばさっきからボクのこと殺すとかどうとか言ってたね。いいよ。お望み通りやってみなよ。……やれるならね」


 場の空気が一気に凍り付く。凍てつくリンの威圧にこの三人の場だけではなく、辺り一帯の異様な艶めいた空気全てが凍り、全ての人の目がリンへと釘付けになる。それから目が離せず、指一本たりとも動かせぬ凍てつく世界へ。


「リ、リンさん……。駄目ですっ…………」


 自分に向けられた訳ではないのに、声を絞り出すので精一杯なミイナ。そんなものを向けられた男はどうだろうか。結果は見ての通り、息一つ出来ない様子で凍りついている。


「……なにミッちゃん。誰の味方してんの?」


 怒りで頭がいっぱいの今のリンにはミイナですらもその対象に。向けられた冷たき威圧に、ミイナも声すら出せなくなり凍り付く。まるで刃が全身に突きつけられているかのように指一本動かせず、呼吸すらもまともに出来ない。


 親しき仲であるミイナですら止められる様子の無いリン。

 遂にその手が腰に下げた刀へと向かう。最早この場でリンを止められる者はいない。

 

 哀れな男の死を誰もが覚悟したその時、


「なーにやってんだか。ここはそういう場所じゃねえっての。お子様は帰った帰った。お義父さんが心配してるぜ?」


 凍った空気なんて一切意に介さない影が現れた。

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