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八話 成功の影に ③

 清涼な森の中を慎重に一歩ずつ進む。前、横、後ろ、上。常にキョロキョロしながら私に出来るだけの最大の警戒をしながら。


「…………はぁ。疲れる」


 警戒しながら森の中を進むこと数分。私はもう疲れていた。身体より心が疲れる。警戒することは、いつ襲われるか分からないと言う不安や恐怖を自覚することになり、心が磨り減っていくみたい。ひたすら警戒することだけがこんなにも疲れるなんて。


「それにしても静か。ゴブリンも何もいないみたいに」


 森の中で聞こえる音は風に揺れる木の葉の音、私の歩く音や私の息遣いぐらいだ。


 あまりの静かさに私の警戒心も緩みだす。歩調を前よりも軽やかにし、周りの確認に余裕を持つ。だって、何もいないし。何も見えないし何も聞こえないし。何も……


「……なに!?」


 何も聞こえないなんて思った矢先、ガサゴソと音が聞こえた。その音は私の近くにある草むらあたりから聞こえて、次第にその音は大きくなっていてこちらに近づいて来るようだった。


 私は腰に下げていた剣を抜いた。音が近づいてくることへの私の唯一の対抗策。剣を構え、草むらを凝視する。


 ガサゴソ、ガサゴソとその音は次第に大きくなり、そして、遂に私の前へとその姿を現した。


「っ! …………はあ。なーんだ」


 緊張して構えていた私の前へと現れたのは可愛らしいうさぎだった。


「まったく。驚かせないでよ」


 安堵した私は走ってきたうさぎを捕まえ撫でる。あっ、すごいもふもふしてる。気持ちいい。もふもふもふもふ。


「もっふもふ。それにしても随分汚れてるなぁ。野生だと普通なのかな?」


 うさぎをもふりながらよく見ると、随分と体が汚れてることに気づく。泥が着いていたり、擦り傷もあちこちにあったり。野生だとこれが普通なのかな? でも、ちょっと汚れ過ぎな気がするけど。


 泥をパッパッと払ってあげる。少しはきれいになったしまたもふもふしようと思った時、再びさっきの草むらからガサゴソと音が。


「また音が。あっ。もしかして、お仲間かな?」


 この子の仲間が追ってきたのかな? もしかして、追いかけっこでもしていたからこんな汚れていたのかも。


 などとのほほんと考えていた私だが、うさぎの様子を見てそれは違うのではないかと思い始める。うさぎは怯えていた。怯えて体を震わせ、そして、私の手から逃げていった。


「あっ! 待って! いや、それよりも!」


 私は一度収めた剣を再び抜き構える。


 音はもう近い。もう、出て来る。


「ギイギイキギィィ!!」


 来た。うさぎを追いかけていたものが。子供ぐらいの大きさで尖った耳のゴブリンが。


「やっと会えましたね! いざ、勝負です!」


 私の初めての実戦が始まる。

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