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七十六話 ミイナ ⑤

 熱い。灼ける灼ける。この身が灼き尽くされる。


「はっ……、かはっ…………」


 息が出来ない。熱い。熱い熱い熱い! 


「ああ、残念。いいの入っちゃったね」


 声が聞こえる。マルクの声が。奥の傷一つ無いマルクが見下す目で私を見ていた。


「これでおしまいか。まあ、楽しめたよ。ありがとう。僕の力になってくれて」


 おしまい……。これでおしまいか。体は既に傷だらけ、更には胸を貫かれ息すらまとも出来ない。もう立っているのも厳しく、体は灼熱のように熱くて、燃え尽きてしまいそうだ。


 おしまい……。ああ、おしまいか。




 ………………そうだ。これで、おしまいだ。


「だから、どうか安やらかに……、は?」


 ……まずは息を整えよう。ちゃんと息をしよう。次に、足腰を立て直そう。ガクガクで今にも倒れ込みそうだから、踏ん張ってちゃんと立とう。身体を整えないと頭も整わない。


「何が起こった……?」


 その次は確認だ。どこをやられてどの程度の傷なのか。確認して後は任せよう。……うん。ああ、熱さが引いていく。良かった。燃え尽きる前に何とかなったみたい。


「なんだ……? 何をした……?」


 よし、熱さも引いた。ちゃんと息もできる。ちゃんと立ってる。


 さあ、前を向こう。


「何をした! 答えろ! 答えろミイナ!!」


 敵は一人。マルクだ。



「……教えません」

「何……!?」

「なんてね。じ、ごふっ、うっ、ふう……。冗談です。ちゃんと教えてあげますよ」

「……っ!」


 焦るマルクが苛立ってる。ふふ、良い気味だ。もっと苛立たせるのともう少し時間が欲しいから時間を稼ぐ為にも話しをしよう。もう少し安定させたいし、知らないと。


「影を奪ったんです。あなたのコピーの影を。そして、影無き者は存在出来ない。過去も無く、未来を記すことも出来ない者はこの世に存在出来ず、消える」


 影は過去を記録し、来た未来を記していく。いわば、自分の記録帳。それが無くなれば、過去も未来も持てないなら、それは存在しないのと同じ。


「消えるだと……! あんな一瞬で何もせずに相手を消す……? そんなことが出来るはずがない!」

「出来ますよ」

「あり得ない! あのコピーは魔力は無くともそれ以外は僕と同じなのに! それを……、左手に、ナイフ……!?」

「ええ、よく気づきましたね。そうです。このナイフです。私が刺されると同時に私もまたあの分身を刺していた。そして、これがその力を発揮した」


 すごくきれいな銀色のナイフ。このナイフは壊れることも刃が欠けることすらない。馬鹿な天才科学者が作った文字通り神の如き力を持つ武器。


「神器『泥棒サンタ(ブラック・)のプレゼント(サンタクロース)』が」


 シオンさんから借りている二本のナイフ。シオンさんが持つシオンさんの神器。


「神器……!? ……なるほど、神器か。それが持つ力は知らないが神器の絶大な力は知っている。そうか。だから、一瞬でコピーを消すことが出来たのか」


 マルクはどうやら納得したようだった。理解したのだろうか。自分の目の前で起こった不可思議な現象、分身が一瞬で消されるという現象に。随分お利口さんだことで。私なら理解出来ないし、仮に理解したらオロオロしだすだろうな。


「じゃあ、その傷が塞がったのも神器の力か」


 私の赤く染まっている胸元を見てマルクが言う。


「いいえ。これは私の力。私の影が私の傷付いた箇所を埋めてくれているから」


 マルクの分身に一撃入れることに成功したが、それは私が捨て身の攻撃をしたからなだけ。だから、もちろん私も一撃貰った。胸を貫かれ息も絶え絶えに死にそうになったが、その傷を影で埋める。


 影は私の全てを知っている。記憶も才能も内臓の状態までも。だから、その影で傷付いた箇所を修復してもらう。影が傷付いた箇所を過去の記録から正常な状態を引っ張り出し、その正常な状態になるように形を変え、修復する。


「影が……。随分便利だね。致命傷レベルも自己修復が出来るなんて、君は不死身に近いと言うことかな」

「……いいえ。私はそこまで影を上手く操れないのでこの傷を塞ぐのでほとんどの影を使っています。だから、もう自己修復はおろか私の影を操ることも出来ない」


 シオンさんならこの傷塞ぐのにどれ程の影を使うのだろうか。いや、そもそもあの人こそ不死身だしそんな必要すらないか。


「……そんな大事なこと教えちゃっていいのかい? 君の力の大部分だろうその影は」


 マルクの疑問は当然だ。影魔法は私の力の大部分を占める。影魔法を使えないと盾を作ることも出来ないし、影纏いも出来ない。

 

「大丈夫ですよ。影魔法があろうとも私の力なんて高が知れていますから」


 影魔法を使えようと私の力など高が知れている。私には師匠達のような圧倒的な力などない。だから、私の力など隠れてしまってもいいのだ。


「それにこの神器の力はあれだけじゃない」


 美しく銀に輝く二本のナイフ。両手に一本ずつ握られたシオンさんの神器。神器「泥棒サンタ(ブラック・)のプレゼント(サンタクロース)」。この神器の力は相手の影を奪うだけではない。それだけならこの神器の名前は泥棒で終わっていただろう。


「これからあなたと戦うのはあなた」


 でも、この神器の名前は泥棒サンタの「プレゼント」。泥棒したサンタさんはそれをプレゼントするのだ。その泥棒したものを。奪った影を。


「お願い、神器よ力を貸して。……影纏い『マルク=ブラウン』」


 私の影が形を変える。

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