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七十話 ドン・オーガスト ②

「ハアアアアァ!!」

「…………………………」


 拳と拳がぶつかり合う。同じ拳を持ちし者達によるぶつかり合い。師匠と弟子。首領(ドン)英雄(ヒーロー)


「…………強くなったな。ロウ」


 その最中ドン・オーガストは自身の弟子の成長を身を持って感じていた。


「泣き虫だったあの少年がここまで強くなったか」


 拳も作れなかった少年がここまで強くなった。師として弟子の成長に喜び、感慨にもひたる。


「いつの話をしているっ……!」

「だが」

「っ……!」


 繰り出されたのはただの蹴り。だが、これを受ける訳にはいかないとロウは大きく回避行動を取る。


「お前が俺に勝ち、俺を『ドン』の名から解放する? 笑わせるな」


 吐き出す白い煙。その煙が風に流され消えるとドン・オーガストの口に葉巻はなかった。

 


「剛式『四式』」


 ドン・オーガストの速さが増す。更に破壊力も。ドン・オーガストが得意とする身体操作術「剛式」。今まで三式まで解放されていたのが四式へ解放され一気に力が増す。最早、別人と言ってもいい程に。


「くっ……!」

「ヒーロー……。ヒーローとはなんだ、ロウ?」


 ヒーローと呼ばれるロウへの問い。その問いが意味するものは何なのか。


「決まっている。ヒーローとは弱きを助け、強きを挫く。みんなの為にその力を振るうんだ」


 そして、それに対しこれ以外あり得ないと自信を持って答えるロウ。

 

「……俺をドンの名から解放するというなら、お前が次のギルドの頂点に立つと言うこと。強きも弱きも下に従えると言うことだ。それは分かっているのか?」

「もちろんだ。あなたが退いた後は僕が冒険者ギルドの頂点に立つ。だが、僕は『ドン』などと呼ばれない。僕は『ヒーロー』と呼ばれるだろう」


 今でも「ヒーロー」と呼ばれるロウからしたら何もおかしなことはない。彼は「ヒーロー」であり、みなの味方なのだ。


「……お前にはまだ早い」

「何っ……!?」


 だが、その答えは不合格だった。


「弱き者だけに味方し、強き者を排除するならばその組織は崩壊するか、対立組織を生む。そして、いずれにしよ争いが起こる」


 頂点である存在が誰かを贔屓したのなら、違う誰かはそれを快く思わないだろう。一度それをすればそれは終わりまで繰り返さないといけない。争いが起こるその時まで。


「頂点に立つならば、下の者を全て味方とするか、敵とするかだ。それが分からず、覚悟も無いうちは駄目だ。まだお前よりあのガキの方が見込みがある」


 組織をまとめ上げるなら、下の者を一つとする必要がある。全員が味方となり一つになるか、自分以外の者が全て自分を敵として一つになるか。前者は理想的だが、組織が大きくなるにつれ難しくなる。後者は修羅の道だ。


 そして、ドン・オーガストが選んだのは後者。誰に味方することもなく、全員の敵となる振る舞いを取った。その結果、ドン・オーガストを好む者はいなくなり狙い通り全員が敵となった。その圧倒的な力により全ての者を恐怖させ、更に反乱を起こす気さえ起こさせない。

 まさに絶対王政。逆らえば待つのは破滅。誰も逆らえず、争いの意味を成さない。荒くれ者の多い組織の長として恐怖で全ての者を従わせる。それがドン・オーガスト。


英雄(ヒーロー)とは孤独なものだ。だが、その孤独が英雄の、強さの証なのだ」


 ドン・オーガストが突きの構えを取る。全てを砕く必殺の拳。突かれるとやっかいだ、それなら突く前に止めると先に拳を繰り出すロウ。しかし、


「柔式『五式』」


 ロウのパンチがすり抜ける。当たるはずだったその拳。その拳はドン・オーガストの身体をすり抜けていった。ドン・オーガストの身体がぐにゃりと歪んだのだ。


「しまっ……!」

「柔拳『大蛇』」


 歪んだドン・オーガストの身体から放たれるの大蛇の様な拳。速く、不規則に動くその拳を捉えることは容易くない。


「がっ…………!!」

「……お前はまだ英雄(ヒーロー)ではない。ヒーローごっこだ。そんなお前が俺を心配するなんて百年早い。お前は今でもただの泣き虫小僧だ。……強くなれ、ロウ」


 ドンとヒーロー。師匠と弟子。二人の戦いはドン・オーガストの勝利で幕を閉じた。

 

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