六十七話 シオン ①
「おっ。当ったりー。よお、懺悔しに来たぜ神父様?」
シオンが選んだ扉の先は、影すらその姿見せぬ神秘の空間。広々とした教会の中へと繋がっていた。そして、そこで来訪者を待ち構えるのはもちろん神父ソーグラス。
「金は持って来ましたか?」
「第一声がそれって現金過ぎんだろ。神父様がそんなんでいいのか?」
「金=神ですから問題ないですね」
「おお、そんな欲望まみれでいいのか神父様?」
微笑みを湛える神父ソーグラスとニヤニヤと笑いを浮かべるシオン。同じ笑いでも対照的な笑いをした二人が向かい合う。
「問題ありません。金=神。金は人を生かしも殺し出来る。そう、力があるのです。力こそが全て。金、武力、権力。力=神なのです」
「あっそう。でも、残念ながら俺は現金を持ち歩かない主義なんでな。あっ、ここカード使える?」
「カード? 何をふざけたことを言ってるんです? まあ、金を持ってないなら貴方自身に金になってもらいましょうかね」
「金だけにってか!」
「………………」
広い教会にシーンとした空気が流れた。微笑みを湛えたまま無言のソーグラスと「なんか言ってくれもいいだろよぉ」とブツクサ口を尖らせるシオン。
「しかし、私があなたと当たったということはマルクは誰と当たってるのでしょうかね。まあ、一番面倒くさそうなあなたと当たらなくて良かったですけど」
ふと、ソーグラスはシオンから視線を外し、別の場所にいる弟子へと思いを馳せるように遠くを見る。心配をしているという訳でもなく、ただ単に疑問を持っただけのように。
「おいおい。自分より他人の心配してる場合か? お前が当たったのは一番面倒くせえ奴なんだぜ?」
「私は大丈夫ですし、師匠が弟子を気にかけるのは当然でしょう? あなたは違うのですか? あの茶髪の娘はあなたの弟子とかではないのですか?」
弟子を持つ者として当然だろうと言うようにソーグラスはシオンへと問う。だが、その問いに対しシオンは当然のようにこう返す。
「はあ? ミイナが弟子なのは合ってるが気にかける? なんで?」
「負けて死ぬかもしれないんですよ?」
「だからどうした? 死んだら死んだだ。大量虐殺した奴の師匠とは思えねえ程お優しいなあ? さっすが神父様」
「弟子の身を案じるのは師として当然の役目。まあ、そもそも私はもう弟子に超えられてるのでそんな心配もしなくていいのかもしれませんが」
師でありながら弟子に既に超えられている。だが、その言葉は自虐でも何でもなく、むしろ堂々と誇るかのようだった。弟子は自分よりも強い。だが、だからといって自分が弱いという訳ではない。そんな強い弟子を育てた師である自分が弱い訳ないだろうとでも言うかのように。
「ああ、なら俺が負けることなんてないな」
そんな言葉に対しシオンはニヤリと嬉しそうに笑う。
「何故です?」
「何故って簡単だろ? 師匠は弟子に超えられる時以外負けちゃいけねえからだよ」
師匠は弟子に超えられる時以外負けてはいけない。それならば、既に弟子に超えられた師匠とまだ弟子に超えられていない師匠。この二人が戦えばどちらが勝つかなど簡単だ。弟子の性能を考えなければだが。
「師匠は弟子に超えられる時以外負けてはいけないですか。確かにそうですね。私もマルクに超えられる時までは負け無しでしたから」
「あっそ。俺はまだミイナに超えられる訳ねえから負けちゃいけねえってか、負けねえ。すまんな始まるから勝ち負けが分かっちまって。もうそれ勝負じゃねえよってか?」
「さあ? いったい何を言ってるのやら。それにあなたはここで負けるのですよ。あなたは師匠失格ですから」
さっとソーグラスは手をシオンの方へ向けかざす。すると、
「ん? なんだこれ? 扉?」
目の前に現れた扉。それはミイナ達と別れる前にもあった扉。五つ並んでいた重厚な扉が突如シオンの目の前に。
「ホーリーレイ」
ソーグラスが何かを唱え魔力が高まった。それを感知し、シオンは咄嗟に回避行動へと移る。その直後、眩しき光線がシオンの目の前にあった扉へと直撃する。
「あっぶね。なんだよあの扉ただの目隠し……」
目隠しの為にシオンの前に設置された扉。視界を遮りその扉ごと自分を殺そうとしていたのだと考えたシオンだが、回避後その扉をよく見てそれが間違いであることを知る。
扉は裏側が開いていたのだ。
「もう遅い」
シオンの頭上から眩しき光が襲いかかった。




