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四十八話 武闘会 ③

「選手控え室はこちらです。時間までこちらでお待ち下さい」


 さて、ついに来ちゃった武闘会決勝トーナメントの日。ああ、嫌だなあなんて思いつつ逃げられる訳がないので渋々受付に行き、案内のお姉さんに付いていって案内された控え室。もう案内されちゃったし仕方なくその部屋へと入る。


 控え室入ると中には既に多くの参加者が集まっていた。うわー、怖い怖い。みんな屈強過ぎる。って言うか私場違い過ぎない? そもそも女の人が居ない。予選の時点で女の人少なかったけどこの控え室にはゼロだ。みんなゴリゴリだったり鋭くて人なんて余裕で殺してますよみたいな男の人しかいない。狼の群れの中に放り込まれた子ヤギの気分。


 入った時点でビビりまくりながら部屋の隅っこが空いてたので速攻でそこに移動する。そして、誰とも目を合わせない。何故なら私は空気だから。私は空気。空気空気。あれ? 予選でも同じことしてた気が。


 部屋の中は殺気でピリピリしていてもう今すぐにでも逃げ出したかった。嫌だよこんな控え室。誰か一人でも知り合いがいればなあ。でも、この武闘会に出てる人でそんな人……、あっ、ドンさんか。一応知り合いだ。でも、ドンさんはこの部屋に居ないや。予選免除なんてされてるんだし、控え室も特別なのかな。いや、そんな会いたいとは思えないけど。


 知り合いなんて誰も居ないので私は空気に徹する。もう周り怖い。武器の手入れしてたり何かブツブツ言ってたりひたすら周りを睨みまくってたりみんな怖い。帰りたい。でも、帰ったらもっと怖い人が居るし詰んでる。はは。そんな部屋の中で空気に徹していた時、部屋の入り口から誰かの声が聞こえて来た。


「案内ありがとう。でも、私はこんな部屋にいるより君と一緒にいたいな。仕事? そんなの放り出せばいい。仕事なんかより私を見ていてくれ」


 ええ……。そんなところで口説くの……。控え室の前で案内してくれたお姉さんを口説く男性。案内されたってことは参加者なんだろうけど今する必要ある? それに口説き文句がかなりキツイ。


「ふぅ……。残念。真面目な娘だ。だが、仕事に使命を燃やす。その姿勢は美しく尊い。思う存分頑張りたまえ。……さて、私も頑張るか」


 うわ、入ってきた。やっぱり参加者だよね。ああいう人とは関わりたくないなぁ。疲れそう。


「はあ。それにしてもここはむさ苦しいな。男ばかりでレディが一人も……」


 え?


「お、おっ、おおおぉ!?」

「ひえええぇぇ!!?」


 なになになに!? なんでこの人ダッシュでこっち来るの!? 怖い!


「はっ! おっと失礼。私としたことが驚きのあまり取り乱してしまった。レディに対して礼儀を欠くとは。すまない、ちゃんと名乗らせてほしいのだがいいかね?」

「え、あっ、どうぞ」


 突然ダッシュでこっちに来たと思ったら、礼儀がどうのこうので名乗らせて欲しいとか言うからついどうぞって言っちゃった。あまりの勢いについて行けなくて言っちゃったけど、これ多分言わない方が良かったやつだ。


「ありがとう。では、お言葉に甘えて。私はコウジ=ウォーカー。全てのレディを愛し、敬う者。良ければ以後お見知りおきを」


 胸に手を当て軽くお辞儀するコウジ=ウォーカーさん。髪はビシッと七三に分けられ、口元にはきれいに整えられたちょび髭。そして、特徴的な服。白い上着に紺色のズボン。でも、あまり見たことのない服。飾りなんて何もなくなんか武って感じ。履いてるものも草?で編んでるようなサンダルだし。あっ、腰に差してあるのは刀かな? なんか色々と珍しい。

 

「わ、私はミイナ=ロジャースです……」


 彼に釣られて私もお辞儀し名乗る。あっ、名乗るべきじゃないのに。関わらないほうがいいのに。


「おおっ、ミイナ。ふむぅ、ミイナ、素晴らしい名だ。美しさも知性も感じさせる魅力あふれる名で、まさに貴女にピッタリだ!」

「そ、そうですか?」


 自分の名前を褒められたのなんて初めてだなぁ。美しさに知性? うーん私は感じられない。きっとこの人は私と違って豊かな感受性を持っているんだろう。


「しかし、こんなところにこんな可憐なレディが居るとは。君を見つけた時の驚きは私の人生の中でもトップクラスのものだ。こんな場所で、こんなに可憐なレディに会えるとは!」

「あっ、はい」


 やっぱりこれは関わったらダメなやつだ。もうすでにめんどくさい感がすごい。


「君との出会いは非常に嬉しいものだが、君は何故こんな場所に来たんだい? レディがこの武闘会に参加するの自体珍しいものだが」

「……私はシオ、師匠に騙されて強制的にこの大会に参加させられまして……」


 我ながらなんて悲しい理由なんだろう。この王国主催の大規模な武闘会にこんな理由で参加って。こんなの私だけだろうなぁ。


「ほう、師匠がいるのか。どんな師匠なんだい?」

「ええっと、……悪魔、と天使ですかね」


 控えめに言ってこれかな。本音で言うと「大」とか「王」とかをつけることになるだろうけど。


「ほぉう。小悪魔に翻弄されつつ天使に癒しても貰えるとは。中々良い師匠達ではないか。そもそもだ、天使の魅力は小悪魔がいるからこそ…………」


 いや、そんな良いものじゃないです。天使の癒しはその通りだけど、もう一人は小悪魔なんて優しいものじゃないし。大魔王だし。って言うかいつの間にか、小悪魔天使談義が始まってる。聞いてもいないのに。め、めんどくさい。


「あ、あの! コウジさんこそ何故この武闘会に参加されたんですか?」


 別に興味無いけど質問する。だって、そうでもしないとこの小悪魔と天使の魅力談義がいつまでも続きそうなんだもん。


「ん? ふっ、決まっている。私の美しき姿をこの王国中のレディ達にお見せするためさ!」


 あっ、そうですか。うん、なんか、知ってた。


「私の美しきこの姿、そして、勇姿をレディ達にお見せする。私の愛を多くのレディ達に届けなくては! だから、この武闘会に参加したのさ。私の愛の為に」

「は、はあ……。そうですか」


 愛の為に武闘会に参加。ちょっと理解出来ないかな。ちょっとじゃないや。かなり、いや全く。


「……まあ、それと生存報告と言うか、元気だぞっと伝えるのも目的だが」

「生存報告?」


 武闘会参加の目的その二に生存報告? 死人が出ることもある大会でそれはどうなんだろう。


「……私は家を飛び出してレディ達に愛を届ける旅をしていたのだ。だから、残された者へのメッセージと言うか報告と言うかをだな。優勝すれば王国中にその名が届くから我が愛娘の耳にも届けばと」

「ええ……」


 まさかの家出? もう大人なのに? 家に娘残して放浪。しかも、堂々の浮気宣言。かわいそうその娘さん。

 

「まあ、愛ゆえにと言うだろう? 愛するがために突き放すこともあるのさ。そう、あの子もそろそろ自立する時。素晴らしいぞ、私」


 うわあ、なんか意味不明な理由で自画自賛してる。素晴らしいことなんて何一つ無いのに。


 そして、今度は始まる自分の自画自賛。私のどこがこう素晴らしいだのなんだの止まらない自画自賛。だ、誰かー、助けてー。


「失礼します。選手の皆様お待たせ致しました。組み合わせが決定しましたので発表させて頂きます」


 おおっ! 救いの手が! やった! これで解放される!


 入ってきた運営のお姉さんが一枚の紙を壁へと貼り出す。そこそこ大きめな紙に書かれていたのはトーナメント表。これから始まる決勝トーナメントの組み合わせだ。

 

 えーと、私の名前は……、あった。トーナメント表の左側上から二組目の場所だ。それで対戦相手は……、え。


「なんと言うことだ! 私の一回戦の相手は君か! これはもう私達は運命で結ばれているとしか言いようがない!!」


 ……私の一回戦の相手のところに書かれていた名前はコウジ=ウォーカー。このよく分からないめんどくさい紳士風の男性が私の相手。色々と嫌だ。


 ……決して運命では結ばれていないはず。


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