四十三話 ジャスティス・ロウ
迫る刃を躱し、続け様に襲う蹴りも避ける。背後でしたかすかな音を頼りに振り向き、飛ぶ。着地後も止まらず動き避け続ける。
「避けるのだけはマシになってきたな」
今日も元気に避ける修行は続く。シオンさんとシオンさんの影による分身からの攻撃。それをひたすら避け続ける。
「レベル三はクリアってとこか」
これでようやくレベル三がクリアか。このレベルって一体どこまであるんだろう。もうこれで結構クリアしたのかな? レベルは五が最大かな?
「じゃあ、四行くぞーほれ」
「えぼっ! ぐ、えっほ、きゅ、きゅうには止めてください!」
脇腹に蹴りがクリーンヒットした! 急に開始するのやめて! それにレベルも急にアップしたし! 四の攻撃また全然反応できなかったし!
「ミッちゃんー! シオンー!」
「ん? リンさん?」
向こうから元気一杯に走って来てるのはリンさん。そう言えば、昨日別れてから見なかったけどどこに行ってたんだろう。
「聞いて聞いて聞いて聞いて聞いてー! ハァハァハァ……」
そんなに言わなくても聞こえてますし聞きますよ。
「ボクね、Sランクになったんだよーー!」
「ええ!? Sランク!?」
リンさんがSランク!? い、いつの間に。この前Aランクになったって言ってたばかりじゃ。あっ、でも、以外と時間経ってるか。大体いつも一緒にいるからそう思えないだけで。
「ミッちゃんへの指導のついでとか合間を縫ってコツコツとこなして、遂に昨日指定クエスト受けてクリアしてランクアップしたんだよ!」
ランクアップするには規定のポイントを貯めて受けられるようになるクエストをクリアする必要がある。AからSになるのなんて必要なポイントも多く、指定クエストもすごく難しいだろうにリンさんを見てると全然そんな風に思えない。
「おめでとうございます!」
「ありがと! と言うことで、今からお祝いいっくよー! 高くておいしいの食べに行こう! ボクのおごりで!」
「自分で祝って自分で出すんですね」
お祝いって言ったら普通こっちが色々出すはずなのに。まあ、私そこまでお金無いし出してくれるのは嬉しいけど。それに休めるし。おいしい物食べれて休めまでする。リンさん様様だ。と言うことで早く行きましょうシオンさん。修行はおしまいです。
「早く早く! 行こうよー」
「そうですね! 早く行きましょう!」
「あーはいはい。しょうがねえなぁ。飯食った後で倍やればいいか」
「リンさん一人でお祝いしてみてはいかがですか?」
「ミッちゃん!?」
いやだって食べた後で倍とか言ってる人居るし。食べたあとなんて眠いし、動くとお腹痛くなるのに倍って。ああ嫌だなぁ。
「もーいくの! はいはいゴーゴー!」
リンさんに背中を押され無理矢理私達は昼食へと連れて行かれた。
「おいしい! おいしい! うん! ……おいしい!!」
「この語彙力の無さよ」
リンさんに連れられてきたお店はこの町で一番高いお店らしく、出される料理はすべて今まで食べたことのないぐらい美味しくまたお値段のするものだった。シオンさんが「おいしい!」しか言わないリンさんを馬鹿にしてるけど私もたいして浮かんでこない。……うん、うまい!
うまい! おいしい! 美味! デリシャス! えーと、うーんと後は……、なんて考えていた時突然、「カーン!カーン!」と私達の耳へ鐘の音が突き刺さる。
「な、なんですか!?」
突如鳴り響いたけたたましい鐘の音。何か緊急なことを知らせるかのように鳴り響く。
「なんだろうね。うるさいね」
「だよなぁ。せっかくの飯だってのに」
「ドラゴンだ! ドラゴンが来るぞー!!」
「へえ、ドラゴンねぇ。ドラゴンが来るんだってよ」
「ドラゴンかぁ。これ食べ終わったら見に行きたいね」
「そうだなぁ。その前にデザート頼んでいいか?」
「呑気すぎません!? 」
なんでこの二人はこんなに呑気なの!? ドラゴンが来るって言ってるのに! 町はもうみんな慌ててますよ! デザート頼んでももう誰も作ってくれませんよ! みんな二人と違って避難したり動きだしていますから!
「そりゃドラゴンぐらいで一々騒いでたってなぁ。バハムートさんみたいなのが来てるわけでもねぇみてえだし」
「見てもないくせにそんなこと言って」
「見なくてもわかるっての。もし今来てるのがバハムートさんレベルならだれでも嫌でもわかるぞ。ミイナは最初会ったとき感じたろ。実体のない影であれだぞ。それが今はねぇし普通のドラゴンだろ」
そういえば、シオンさんと初めて会ったときにバハムートの影を見たんだっけ。確かにあの時のはすごかった。森も空気も何もかもが震え、圧倒的な存在っていうのを初めて感じた。けど、今はそういうことを言ってるんじゃないよね!? 普通でもドラゴンが来てるんですよ!? 避難するなり、迎撃に行くなり何かしら行動をするべきって話ですよね!
「わかったわかった。じゃあお前が倒しに行ってこいよ」
「私が勝てるわけないじゃないですか!」
「はぁ。情けない弟子を持って俺は悲しいよ」
「すいませんね情けなくて!」
「まあまあ。ミッちゃんの言うことももっともだよ。もうみんなどこか行っちゃったし僕らも行こうよ。待ってても料理出てこないし。……今ならお金払わなくても良さそうだし」
そして、重い腰をようやく上げる二人。いや、お金はちゃんと払いましょうね。今はいいですけど後でもう一回来ましょうね。
「わー人いっぱいだね。みんなドラゴン見たいんだなぁ」
「もういい場所は取られたかもなぁ」
「絶対違いますよねこれ」
ようやく店から出た私たちはドラゴンが来るらしい方角へと向かい、町の外で多くの人が集まっているところへとたどり着いた。
「観測所から連絡があり五分経つ。ドラゴンはもうじきに町へと到着するだろう。何としても俺たちで町を守るぞ!」
「「おおっー! 」」
集まっていたのはドラゴンを討伐しようとする人たち。どう見てもドラゴン見たさに集まった人たちじゃない。みんな冒険者とか自警団とかそんな感じの人たち。みんなドラゴンから町を守ろうとしているんですよ。お二人と違って。
って言うか、なんでこっちに来ちゃったんだろう。私が来たところでドラゴンに勝てるわけないし、さっきも逃げるつもりだったのに。二人に釣られてこっちへやる気ないのに来てしまった。うん、私も二人と同じか。
「来たぞ! あれだ! ドラゴンだ!」
誰かが叫び指を指す。指された方を見てみると小さく何かが飛んでいる姿が。そして、それはぐんぐんとこちらに近づいて来て、ついにその全貌が視認できる距離まで。
「撃てー!!」
ドラゴンが視認できる距離まで近づいて来たと同時に、みんな弓を射る。空を飛ぶドラゴンへと放たれた無数の弓はドラゴンの体へと突き刺さる。しかし、
「グオオオオォォ!!」
刺さった弓はドラゴンが少し体を振るわせるとすぐに抜け落ちてしまう。ドラゴンの硬い鱗に弓が負けている。殆どの弓は鱗に阻まれて弾き返され、極一部の刺さった弓も簡単に振り落とせる程。ほとんど効果なんて無い。
「ぐっ、翼だ! 翼を攻撃し、地面へと叩き落とすんだ!」
今度は皆翼へと狙いをつけて射る。しかし、
「う、うわあああ!」
射られた弓から身を守るため、ドラゴンはその翼を大きくはためかせた。それにより弓は全て吹き飛ばされ、地上にいる人間にも倒れそうになるぐらいの突風が襲う。
「ひゃーすごい風だね。飛んでっちゃっいそう」
「上手く乗れれば空飛べるかもしれねえぜ?」
「本当に!?」
「だから、呑気過ぎですっ!」
なんでこの二人はいつまで経ってもこんな呑気なの! 他のみんなは必死にドラゴンを倒そうと頑張ってるのに! ドラっ、あっ。
見上げるとドラゴンは大きく息を吸い込んだのが見えた。そして、次の瞬間ここにいる皆を焼き尽くす程の大きな火球が放たれたのも。
「うわああ! 逃げろおお!!」
強大な火球を前に逃げようと慌てふためく人達。でも、火球はそんな時間なんて与えてはくれなかった。距離がある分達するまで時間はあるが逃げれるほどゆっくりではない。諦めて呆然とすることしかない出来ないぐらいに。
もう諦めて呆然とした私はシオンさんの方を見てみた。シオンさんならどうにかしてくれるかなぁなんて思って見ると、シオンさんは前すら見てなかった。何見て、あっ、リンさん……。リンさんシオンさんの後ろに回ってシオンさんを盾にしてる。賢いなぁ。あはは。
私もそうしようかななんて見ていると、突如私達の間を風が吹き抜けた。そして、その風は迫りくる火球へと突っ込んで行き、火球を思いっきり殴りドラゴンへと弾き返す。
弾き返された火球はドラゴンへと直撃し、ドラゴンを地面へと撃墜する。そして、それをした本人もまた地へと降り立ち私達の前へと立つ。
「みんなよく頑張ってくれた、ありがとう。もう大丈夫。僕が来たからもう大丈夫だ!」
白きマントをはためかせ、私達の前にヒーローが現れた。