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三十九話 かくれんぼ ④

「はあー。疲れた」


 かくれんぼをクリアし、宿へ帰って来てきた私とリンさん。夕食を食べ終え、お風呂も入り後は寝るだけとベッドへ腰掛ける。あー疲れた。ちゃんと休まないとね。おやすみなさ……


「寝るにはまだ早いぞ?」

「え? ん? ええ!? え、え、えええ!!?」


 あれ!? なに!? 何!? どうなってんの!? どこここ!?


「ひゃう!?」


 なに!? 何か落ちてきた!? ん? これシオンさんのナイフかな? 暗くて見にくいけど、うんそうだ。


「……あっ、シオンさん……」


 そう言えばかくれんぼでシオンさん見つけてない。それに寝ようした時聞こえた声シオンさんの声だった。……もしかして、シオンさん私が忘れて帰ったこと怒ってる?


「……シオンさん。ごめんなさい。あの、本当にすいませんでした。だから、帰してください」


 あの声が聞こえた後、私はどこかに移動させられた。多分というより絶対シオンさんによって。月明かりすらない暗闇により今私はどこに居るのか全然分からない。薄っすらと見えるのは木? 茂みみたいなのも見えるな。ここは森とか林かな? 


「シオンさーん。……シオンさーん。……シオん?」


 何やら後ろの方でガサッと音がした。シオンさんかな? 


「あっ、シオきゃあぁ!??」


 音のした方向へと振り向いた時、何かが私へと飛びかかって来た。


「ヴォウォウゥ!!」

「うぐっ!」


 飛びかかってきたのは鋭い牙を持つヴォルフ。その勢いのまま私を押し倒し鋭い牙で私へと襲いかかる。


 私の喉をその牙で穿とうと狙うヴォルフ。それを私は左腕で防ぐ。それにより喉は守れた。でも、左腕がやられた。


「うああぁ!! ううっ、ぐっ、このっ!」


 ヴォルフは守ろうと出した私の左腕へと噛み付いた。左腕へ突き刺さるヴォルフの牙。人の腕を噛み砕く程のヴォルフの顎の力でその牙は更に深く抉る。


 私の左腕を噛みちぎらんとするヴォルフだが、私は何とかそれを手にしたナイフで防ぐ。ヴォルフの腹部あたりを突き刺し、噛む力が弱ったところへ蹴りを入れ、ヴォルフを引き剥がす。


「うっ、あああぁ…、ううっ……」


 ヴォルフを引き剥がせはしたが、左腕に重大なダメージを負った。めちゃくちゃ痛いし、動かせない。左腕はもう使えない。それに今の私の装備はこのナイフ一本のみ。着てる服も寝間着だし、靴を脱いでなかったのは幸いなぐらい。


 そして、この暗さ。一筋の月明かりすらないこの暗闇。ほんの少し前がぼんやり見える程度しか見えない。この状況下での戦闘。厳しい。


 でも、ヴォルフも傷を負った。深くはないが腹部へとナイフを突き刺したことでヴォルフの動きも鈍いはず。もうその傷で逃げててくれればいいけど、どうなのか分からない。引き剥がしたヴォルフはどこかへ隠れてるだけかもしれない。暗くて全然見えないからどこに居るのか分からない。


「ハァハァ……。ハッ……、すぅ……。……っふぅ……」


 目が頼りにならない今頼りに出来るのは耳。つまり音。私は痛みに耐え、何とか息を整える。荒い呼吸音は相手に自分の位置を教えることになる。出来るだけ相手にこちらの情報は渡さないようにしないと。


 それと同時に私は音を探す。ヴォルフの呼吸音、移動音。何でもいいから相手の位置を知るために耳を使う。ついさっきまでやってた街中で鈴の音を探すよりは簡単なはずだ。今は風も弱い。生じる音は私達の音ぐらい。


 耳を使い音を探す。すると、その時、


「アオオオォォーン!」


 私の右方向で鳴き声が聞こえた。居る。こっちにヴォルフが。さっきのヴォルフだろう。でも、さっきの鳴き声は……、


 さっきの鳴き声は私への威嚇でも痛みに耐えられなくなって出た鳴き声でもない。あの声は多分、仲間への遠吠え。


 私はその声を聞いてすぐに動き出した。遠吠えしたヴォルフの方へ向かう、のではなくヴォルフとは反対へ走り出す。


 こんな状況で仲間を呼ばれて勝てるわけがない。一刻も早くこの場から逃げないと。仲間はまずあのヴォルフのところへ行くだろうからヴォルフから遠ざか、


「あっ……、くっ……」


 私が逃げるを選んだのは多分間違いじゃなかったはず。でも、その逃げる方向は完全に間違いだった。


「ヴヴ、ヴォウ! ヴォウヴォウ!!」


 私が逃げた方向からヴォルフの仲間がやってきてしまった。

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