表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/102

十八話 避ける

「おはよう。昨日は楽しかったか?」

「はい!」


 束の間の休息を堪能した私は、次の日冒険者ギルドにてシオンさん会っていた。


「そうかそうか。楽しかったか。なら、今日からまた頑張っていかないとなあ?」

「……はい」


 ですよね。今日からまた修行再開ですよね。基礎鍛錬は終わったけど、どうせまた地獄の様な修行が続くんですよね。


「よしよし。じゃあ、行くぞ」

「え? まだ何もクエスト受けてないですよ?」


 私達は冒険者ギルドに居るけど、まだ何もクエストは受けてない。私もリンさんも受けてないし、シオンさんはそもそも登録してないし。


「商業都市はクエストが少ねえからな。クエストは受けない」


 確かに言われて見るとクエスト少ない。ギルドにあるクエストボードは、すかすかで寂しくなっている。前の田舎町でも結構あったのに。


「商業都市は多くの人が行き交うから、その分周辺も整備されている。ここに来るまで道綺麗だったろ。それに魔物と出会ったか?」

「そう言えば会ってないですね」


 商業都市に近づけば近づくほど、道は綺麗になり魔物の数も減っていった。あれはそういうことだったのか。


「だから、クエストは少ねえし、受けない」

「じゃあ、どうやって修行するんですか?」


 もう基礎鍛錬は終わりって言ってたし、ただ走ったり筋トレしたりすることはないはず。って言うかないですよね? ないって言って下さい。


「安心しろ。方法はいくらでもある。とりあえず都市の外に行くぞ」


 そう言ってにやっと笑うシオンさん。ああ、嫌な予感しかしない。でも、私には選択権などない。ただ黙ってついていくだけ。そして、黙ってシオンさんについていき、商業都市の壁の中から出ていく私達。


「ここらでいいか」


 都市の中から出てすぐシオンさんは止まる。あたりには都市を覆う大きな壁以外なく、魔物もいない。何にも無い原っぱ。


「これから何するんですか?」

「これからは『避ける』を鍛える」

「避ける?」


 避ける? 避けるって攻撃を避けるとか? ええー。やっと基礎鍛錬が終わったんだから、そろそろ攻撃する方を教えて欲しいのになあ。


「不満そうだな?」

「え! そ、そんなことーありませんよ?」


 なんでバレた? やっぱり顔に出てた? そんなに顔に出やすいのか私。


「どうせお前は『避けるなんてどうでもいいからすごい攻撃教えて!』とか思ってんだろ」

「そそそ、そんなことありま」

「す?」

「…………す」


 ダメだ。シオンさんに全部見透かされてる。そうだ。私が顔に出やすいんじゃなくてシオンさんがすごいんだ。うんそうしよう。


「やっぱりな。じゃあ、ここで一つ悲しいお知らせを伝えてやろう」

「か、悲しいお知らせ?」


 突然の悲しいお知らせってなんだろう? シオンさんがそんなことをわざわざ言うんだから、いつも以上に嫌な予感しかしない。


「知ってるか? 影って言うのはな、もう一人の自分で何でも知ってるんだぞ」

「? はい?」


 突然何? 影? 影はもう一人の自分で何でも知ってる? へえー。そうなんだ。それで悲しいお知らせは?


「人間の記憶には限界があってどんどん忘れていくが、影は全部覚えている。それに影は自分じゃ知れない自分の内面のことも知っている。自分の内臓の状態とかも知っているんだぞ」

「はぁ……。そうですか」


 影がすごいのは分かりました。過去のこと全部記憶してて、自分じゃ分からない内面のことも知っていて、自分に関することなら何でも知っているんですね。それで悲しいお知らせは?


「それでな、自分の内面も知っているってことはな、自分に隠された潜在能力も知っているって訳だ」

「潜在能力?」

「そう。いわゆる、才能ってやつだ」


 へえー。影は自分に隠された才能も知ってるんだ。すごいなー。


「そして、俺が使える影魔法の一つにな、影読みって魔法がある」

「はい」

「影読みって言うのは、その名の通り影を読むことの出来る魔法だ」

「そうですか。……ん?」


 あれ? 影読みで影を読むことが出来る? そして、影って言うのは過去の記憶を全部知っていて、才能の様な内面のことも知っている。……え。ちょっと待って。影と悲しいお知らせって、それってもしかして。


「シオンさん待っ……」

「残念ながらミイナには才能など何一つなかった」

「ぬああああぁぁ!!」


 やっぱり! やっぱり私の才能読まれてる! そして、私には才能何一つないなんて悲しいお知らせ伝えちゃった! やめてよー! 知りたくなかった! 私には才能一つもないなんて!


「だからな、ミイナに先に攻撃を教えたところですぐ死ぬだけだ。ああ……。もし、もしミイナに類まれなる身体能力や戦闘の才能があれば! あれば『避ける』なんて鍛えなくて済んだのに! 悲しいなあ〜?」

「くううぅ!」


 くそぅ! ムカつく! シオンさんのあの顔ムカつく! 才能ないことを煽るなんてシオンさんは人として最低! 最低、最低だけど正論過ぎて言い返せない!


「と、言う訳だ。だから、これからは『避ける』を鍛え、身につけてもらう。元々お前がどう言おうとこうなってたんだ。諦めてやれ。弟子に拒否権なんてねえんだから」

「………………はい」


 才能のない私は、攻撃よりもまずは避けることから学ばないといけないみたいです。はあ。ショック。私に才能ないなんて。それに影を読まれたってことは、私の過去とかもシオンさんに知られてるってことだよね。……あれ?


「まあ、そう落ち込むな。それに避けるは戦闘時に置いてかなり重要になってくることだ。敵からの攻撃を避け、自分の身を守るのはもちろん、避けることにより敵のリズムや体勢を崩し、反撃するチャンスへと繋げることも出来る」


 ……ふーん。なるほどなるほど。避けるのは単に自分を守るためじゃなくて、攻撃するチャンスへも繋げることが出来ると。攻守において重要なんだ。じゃあ、これは実質攻撃の修行だね。


「でも、どうやってそれを鍛えるんですか? ここには魔物とか攻撃してくるのが居ないですよ」


 以前は逃げるを鍛えるために、シオンさんが森の中からヴォルフ捕まえてきたけど、今回は魔物なんて存在しない。今から捕まえに行くのかな?


「何言ってんだ。ここに居るだろ?」

「え?」


 ここ? ここに居るって、今ここに居るのは私とシオンさんとリンさんだけなのに、あっ。


「全力で避けろよ、ミイナ。影纏い武神ゴルドーラ」 

「手加減はしてあげるから! でも、頑張らないと危ないよ? 怪我……で済んだらいいね! なははっ!」

「ちょ、それ無理で……」

「さあ、始めるぞ。安心しろ。死んでも連れ戻してやる」

「いやああぁーー!!」


 地獄は終わりませんでした。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ