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十六話 旅の目的

「ゴクッゴクッ……プハァー。ああ、生き返る……」


 森の中をヴォルフに追いかけられ、それをジグザグ走りで避けつつ走り抜け、ついに町に帰ってきた。冒険者ギルドで飲む冷たい水はすごくおいしい。生き返るー。


「まだ一回も死んじゃいねえのに生き返るって」

「普通人は一回しか死ねないんですよ?」


 何あたかも人は何度も死ねるみたいなこと言ってるんですか。そりゃシオンさんは違うかもしれませんけど。それに死んでもシオンさんが連れ戻してくれるらしいから、私も何回も死ねそうだし違うかもしれませんけど……。


「何当たり前のこと言ってんの、ミッちゃん」

「あ、リンさんはまだ知らないですよね。シオンさんは不死らしいですよ」

「不死?」

「ええ。って私もよく知らないんですけど。今更ですけどシオンさん不死ってどういうことですか?」

「そのまんまだ」


 いや、そのまんまって言われても。そのまんまが分からないから聞いてるのに。


「俺の不死はある時から時が止まっているタイプの不死だ。だから、食事も休息も必要ない。その時から動かないからな」


 へぇー。ある時から時が止まっているタイプの不死なんだ。まあ、そんなタイプとかどうとか言われてもよく分からないけど、老いがないってことかな? 不老不死ってやつ?


「へぇー。シオンってそんな変な人だったんだね」

「直球だな」

「別に悪い意味じゃないよ。すごいと思うよ。うん」


 本当に思ってるのかな? まあ、あんなに強いリンさんならこんな反応なのかな。あっ、そう言えば。

 

「そう言えば、リンさんリザードマンのクエストを受けてたんじゃないんですか? 報告に行かなくていいんですか?」


 私達と会った時にリンさんを囲んでいたリザードマン。あれってリザードマン討伐のクエストをリンさんが受けたから、あんなことになってたんじゃないの。


「うん? ボクそんなクエストなんて受けてないよ」

「え?」


 クエスト受けてない? それならなんであんな状況に? それにあんな人のいない森に?


「あのね。最近体動かしてなかったから、動かそうと思ってあの森に行ったの。そしたら、あのリザードマン達に会って。丁度いいやーって思って」


 そんな理由であんな状況に……。よくやる、って言ってもリンさんぐらい強いと、あれぐらいやらないとダメなのかな。あれでも全然物足りなそうだったし。


「ふぅん。リンはこの町に住んでるのか?」

「ううん、違うよ」

「ん? なら、なんでこんな町に居るんだ? この町は小せえし、周辺も安全だし、居てもなんの得もねえだろ」


 シオンさんそんなに言わなくても。確かにこの町は小さな田舎町で、周りにいる魔物も低級と中級しか居なくて、安全で熟練の冒険者には向かない町だけど。


「ボクね、人を探してるんだ」

「人を?」

「うん。その人を探して旅をしてるんだ」


 聞くとリンさんはその人を探してこの町に来て滞在していたそうで。そして、ここにはその人は居なかったらしく、もうそろそろ次の町に移動しようと考えていたところだったらしい。その準備運動としてあの森に行って、結果私達と出会ったらしい。


「まあ、探してるのボクの師匠なんだけどね」

「リンさんの師匠……」


 リンさんの師匠ってことは私の師匠の師匠? こんな強いリンさんの師匠ってすっごく気になる。どんな人なんだろう?


「ど、どんな人なんですか? リンさんの師匠って」

「……変な人だよ」

「え?」

「ナルシストで自信家で女たらしで紳士気取りの似非紳士で、ボクが探す旅に出ることになったのは師匠がある日突然『世界中のレディ達に私の愛を届けなければ!』って置き手紙残して消えたせいだし」

「ええ……」


 リンさんの師匠想像以上に変人だ。ナルシストで自信家で女たらしで似非紳士? うーん。あんまり関わりたくないタイプの人だなぁ。


「師匠を探して旅ねえ。それでリンは次どこに行こうか決めてるのか?」

「うーん。人の多い町に行こうかなって思ってる」

「人の多い町ですか。この近くなら、商業都市あたりですかね?」


 商業都市。確かこの町から東の方へ行ったところにあるはず。商業が盛んでそんな広くないのに、とても人の多い町。人の多い町って言うとそこになるかな。


「商業都市ねえ。この町からなら走って一週間ってとこか? ……丁度いいな」


 ん? 何が丁度いいんですか? 私すんごい嫌な予感しかしないんですけど? 何がですか? 一体何が丁度いいんですか?


「ミイナ俺達も商業都市に行くぞ。もちろん走って」

「……ですよねー」


 うん。分かってた。こう来ることなんか分かってた。でも、やっぱり希望は持っちゃうよね。走って行くには遠いから、馬車に乗っていこうとか言ってくれるなんて希望持っちゃうよね。シオンさんがそんなこと言う人じゃないの分かってるくせに。


「二人共一緒に来てくれるの?」

「ああ。お前が良ければだが」

「うんいいよ! 嬉しい! ねへへっ。誰かと一緒に旅するの初めてだなぁ。楽しみ」


 ……まあ、リンさんと一緒だしいいか。これからリンさんと一緒に旅出来る。うん。そう考えたら一週間走るぐらいいいかもしれない。必要な対価だよね。あああ走るのやだなぁー。


「そうだ! 指導は同時進行でやる訳だから、ミッちゃんただ走るだけじゃなくてジグザグ走りね!」

「え゛!?」


 ジ、ジグザグ? 普通に走って一週間かかる距離をジグザグ?


「一週間も走れば、ジグザグ走りはマスター出来るはずだよ。幽歩への第一段階終了だよ!」

「いや、そんなこと言われても……」

「そうだな。それに一週間も走れば、そろそろ身体も出来上がってくるだろ。基礎鍛錬も終了出来るぞ」

「そんなこと言われても……」


 そんなこと言われても走りたくない……。一週間、ジグザグ走り……。いや、ジグザグなんだから一週間で終わる訳がない。最悪倍かかるかも。


「ま、お前に拒否権はないからな。ほら、行くぞ」

「い、今からですか!?」


 さっきまでずっと森の中走ってたとこなのに!? もう出発!? ちょっとぐらい休憩、ああそんな選択肢は無いんですね。


「そりゃそうだ善は急げって言うだろ?」

「どこに善が……」

「俺が楽しい。これが善だ」

「……シオンさんって悪役似合いそうですね」


 ブツブツとシオンさんへの嫌味を言うけどそんなのどこ吹く風のシオンさん。


「ミッちゃん早く! 早く行こうよ!!」


 もうすでにギルドの出口に向かって嬉しそうにうずうずしてるリンさん。


 そんな二人にせかされ、半ば強引に連れて行かれ私達はこの町から旅立った。

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