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九十九話 過去 ⑦

「おや、お久しぶりですね。ブラウンさん」

「これはルーカス王。なんと、私などの事を覚えていてくださるとは」

「あなたの評判はよく聞いていますから。民と共に歩むことができる領主だと」

「身に余る光栄です。ルーカス王」


 城へは毎日色んな人が訪れる。廊下ですれ違う人の数も多い。すれ違う人全てにルーカスは挨拶する。会釈だけのことも多いが、少しばかり談笑することだって。


「では、これで失礼します。遠くからわざわざ来て頂き、ありがとうございます。ゆっくりしていってください」

「ありがとうございます。有り難くお言葉に甘えさせていただきます」


 軽く談笑し、自身の執務室へと戻る。こういう何気ないことが大切だとルーカスは思っていた。王だからと言って相手に不遜な態度なんて取らない。今まで経験してきたことは相手の方が上なんだから、敬意を持って接しよう。その経験を少しでも自分に分けてもらう為にも、対等な立場で話すことは大切だ。


 と、執務室の椅子に腰掛けて考えていた。まだまだ自分に足りないこといっぱいある。色々学ばなければ。国の為に、民の為に。


 そんなことをぼんやり考えていた時、扉が慌ただしく開けられる。


「失礼致します!」

「なんだいそんな慌てて……」

「イ、イモータルデーモンの封印が解かれました!」

「は、なっ!? 本当かそれは!?」


 ルーカスに衝撃が走る。イモータルデーモンの封印が解かれる。それは考えてもいなかった最悪の報せ。

 かつて王国を一体で壊滅させかけた伝説の魔物。王国総力を上げて止めたものの、完全に殺すことは出来ず、封印という形で幕を閉じた最悪の存在。その封印が解かれてしまった。


「何故、誰が……、いや今はそんなことはいい。コウジ、シバルト、レオニクスを呼べ! あの三人しか討てる者は居ない!」


 最悪の報せに瞬時に対処する。これ以上信頼できる対処方法など存在しないのだから。彼の信頼する最強の師匠達。彼ら以上の存在などあり得ない。




「……レオニクスはどうした?」

「彼はマーカス様に呼ばれてどこかへ消えたそうです」

「兄上に? ……いや仕方ない。時間がない。君達二人でどうにかしてくれ。王国の危機だ」


 召集をかけてすぐにコウジとシバルトが部屋にやって来た。だが、あと一人の姿がない。それでも時間は限られている。待つことは出来ない。


「……イモータルデーモンか。三百年前の伝説の魔物。相手にとって不足は無いな」

「これまでで一番の標的ですな。現役の頃へ戻ると致しましょう」

「一刻も早く止めねば最悪な被害が出る。強大な魔法を使うイモータルデーモンの前に数は無力だろう。個の力で制圧するしかない。……勝てるのは君達二人しか居ない。冒険者ギルドの実力者も今は壊滅状態だ。援軍は無い。厳しいけど、頼んだよ二人共」

「任せた給え。私を誰だと思っている」

「承知致しました」


 過去の資料には強大な魔法により一瞬で数千人が犠牲になったとの報告もある。数で勝てる相手ではない。強大な個には同じく強大な個をぶつけるべきだ。


「非常用の転移魔法陣がある。それを使って現地へ向かえ。……絶対無事に帰ってきてね」

「ふっ、安心したまえ。私は世界で一番強く、美しい存在だぞ」

「畏まりました」


 自信満々なコウジとシバルトが部屋から出ていく。伝説の魔物相手だろうとあの二人なら大丈夫。そう信じるしか今は出来ない。


 だが、万が一彼らが負けた場合はどうするか。軍の総力を上げれば討てるのだろうか。三百年前はどうしていたのか。近隣諸国にも救援を要請するべきか。そもそも伝説の魔物は今どれ程の力を持っているのか。考えることは山ほどある。


「……大丈夫だ。僕は僕で出来ることをしないと。これからの未来を、あの子の未来を奪わせるなんてさせない」


 彼らだけを戦わせる訳にはいかない。自分もまた戦わなければ。未来の為に。


 覚悟を決め、通信機を手に取った。






 慌ただしく時間は過ぎた。朝報告を受け、ずっと対策を考えた。資料を集め、議論し、関係各所へ連絡をし、対処へ努めた。


 気づけばもう深夜だった。一人、自室で机に向かう。討伐に向かった彼らの連絡員からは、未だ交戦中としか連絡が来ない。間近で彼らの戦いを捉えることなど出来ないから、状況の詳細も分からない。今はただ彼らの勝利を祈るしか出来ない。


 コンコン。


「……誰?」

「私よ。あなた」


 扉からノック音。そして、聞こえてきたのは愛妻の声。


「ごめんなさい。邪魔しちゃ悪いとは思ってたんだけど……」

「いいさ。むしろ、来てくれて嬉しいよ。……きっとあの二人なら大丈夫さ」


 扉を開け彼女を迎え入れる。彼女もまた不安だった。よく知る二人が死地へと赴いていること。彼らの安否とその結末。信じていても、最悪な未来の光景は頭から離れない。


 お互い身を寄せ合って彼らの無事を祈る。その時、再び扉からノック音が。


「……俺です。レオニクスです」


 扉の奥から聞こえてきた声はレオニクス。


「今日は来客の多い日だね」

「……そうね。あっ、鍵閉めてなかった」

「不用心だね。聞いてた? 開いてるよ」


 キィと扉が開けられた。そして、扉の向こうから現れたのは声の通りレオニクス。そこまでは間違いなかった。


「っ! ……どうしたんだい? そんなにめかしこんで?」


 現れたレオニクスは鎧を纏い、剣を抜いていた。

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