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一話 ある日森の中で

「えっと、これが薬草で、これが……薬草?」


 柔らかな木もれ陽が差す森の中、私は草花と分厚い図鑑をにらめっこしていた。


「うん薬草。うん。うん? あれ、これちょっと模様が違う? えーと、これは……毒草!? 薬草とよく似た見た目だが、斑点のような模様があり、毒を持つ!? ……え。いままで採った半分ぐらい毒草……」


 なんかこの薬草変だなーと思い図鑑を見てみると、なんとよく似た毒草があるなんて書いてあった。カゴの中には見た目薬草がいっぱい。でも、いざ確認してみると毒草もあった。毒草、毒草、薬草、毒草、毒草、薬草……。……半分以上が毒草だった。


「ああ、もうやだな……。こんな初歩的なことすら出来ないなんて。……私にはやっぱり冒険者なんて無理なのかな」


 薬草と毒草を見分けられない冒険者。薬草で回復しなきゃ! ぐはっ! 毒草だった……。無念……。……嫌な将来が見えたような気が。


「冒険者に向いてる、向いてない、向いてる、向いてない……」


 好き、嫌い、好き、嫌い、好き。わーい。花占いみたいで楽しいー。とりあえずカゴから毒草出さないといけないけど、出してると花占いみたいに思えてきた。カゴから毒草がどんどんなくなっていくよ。最後にカゴの中に残ったのが薬草なら私は冒険者に向いてる!……はあ。


「……ダメダメ。向いてる向いてないとかじゃなく、これからは冒険者として生きていくんだから。元気を出して前を向くのよ、ミイナ。きっと偉大な冒険者だって初めはこんな間違いを犯してたはず。むしろ、この間違いは偉大な冒険者への第一歩!」


 そう。私は冒険者として生きていくって決めたんだから。こんなところでへこたれててもしょうがない。カゴから全部毒草も取り出せた。カゴみたいに気持ちも一新させないと!


「よしっ! もう大丈夫! 私は出来る! 頑張れば何でも出来るはず! だから、頑張るのよミイナ!」


 大丈夫。私は出来る! きっと偉大な冒険者だってはじめはこんな間違いを犯してたはず。むしろ、この間違いは偉大な冒険者への第一歩! 何も気にせず進もう! 


 よし、立って。進むのよ、ミイナ。さあ、偉大なる冒険者への第一歩を今、踏み出す!


「え? なんか、ムニュって……、ああ! 踏んでる! ちょっと青っぽい何か! 何、あ! スライムだ!」


 踏み出すだした第一歩の感触は硬い地面の感触ではなく、ムニュと柔らかい感触だった。スライムだ。透明に近い青のプルプルした体を持ち、不格好な山のような形を普段ならしているスライム。でも、今は私に踏みつけられペッタンコの状態になっていた。


「ごめんなさい! 大丈夫ですか!? ……じゃない! 私は冒険者。遭遇した魔物は倒さないと!」


 冒険者の仕事は薬草採取だけじゃない。魔物討伐もあるのだ。


「スライムの倒し方は……体の中にある核を潰す。核は脆く剣を軽く一振りすれば潰せる。なんだ、簡単。脆い核を潰すだけなんて。えー、核、核。核、え?」


 私は図鑑片手に腰に下げていた安物の剣を抜き、スライムの核を探す。核はどこかなー?このあたりかなー?なんて気楽に探していると、突如スライムが口を開けて襲い掛かってきた。


「きゃあ! あ、危なかった。突然襲い掛かってくるなんて。って、ああ! カゴが! カゴが溶けてなくなってる!?」


 スライムの攻撃を間一髪で私は躱すことが出来た。でも、近くに置いていた薬草を採取したカゴは直撃を食らっていた。そのカゴは文字通りスライムに食べられ、跡形もなくドロドロに。


「図鑑、図鑑! えーと、スライムの体内は強力な酸性を持つので注意!? さっきの攻撃がもし体に当たってたら……」


 もしさっきの攻撃が私に当たっていたら……。ううっ。考えただけで寒気がする。肉も骨もドロドロ……。


「うう、怖い。ちょっ、こっち来ないで下さい! あっち行って! ああ! 分かりました! あっち行きますから来ないで下さい!」


 無理! 怖い! こっち来ないで! 来るなら逃げる! ごめんなさい!


 ……私の冒険者としての第二歩は敵前逃亡から始まった。


「はあ、はあ。追ってきてないよね?」


 無我夢中で森の中を駆け、なんとかスライムから逃亡出来た。そして、気づくと少し開けた場所へ出ていた。まだ森の中だが、木々が生えておらずぽっかりと開けた場所へ。


「追ってきてない。……はぁ。低級魔物のスライム相手に逃げちゃうなんて。やっぱり、向いて……、違う違う。もう冒険者として生きていくって決めたんだから頑張らないと。辛いときは空を見上げろって言うし、空見げよう」


 辛い時は大きな空を見上げよう。そうすると、嫌なことも忘れられる。毒草を薬草と間違えたことも、スライムから逃げ出したことも……。


「……はあ。空は良い天気なのに、私の心は……なんて。……あれ? なんだろうあれ。……こっちに来てる?」


 青く透き通り、雲一つ無く快晴の空には太陽の日を遮るものなど何もない。でも、私が見上げた空はそうではなかった。青く透き通り、太陽が輝くはずの空は、徐々に黒くなり、遂に黒い影が覆いかぶさり空が全て隠された。


「え、え、え!?」


 小さかった黒い影は徐々に大きくなり、遂にその影の主が私の目の前へ。


「ゴギャオオォオォォ!!」


 私の目の前に降りたった影の主、それは赤き鱗を身に纏ったドラゴンだった。


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