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ABC殺人事件。

作者: 花衣の唄

あー…。

…目が覚めた。

「ここ、どこ?」

「ここは、病院。」

「もしかして、救急…?」

そう。と答えるとその男の看護師さんは点滴を備え付けて

行ってしまった。

見えないけど、どうやら私の体にはいろいろと心電図のパッチなどが

取り付けられているらしい。病衣で胸が半ばはだけている。

「あーあ。またやっちゃったよ…」

悔しくも運ばれるのはこれがはじめてではない。


”目が覚めた”ということは、”生きている”ということになる。

頭が重たくて、まだ何も考えられないけれど、

そういえば、私、死のうとしたんだったっけ…。

たぶん発見が早かったんだな…。

”かろうじて生き延びた”ということだろう…。


遠くの方に、父と母と長谷川の姿が見えた。

私はもうろうとしながら、その幻影に向かってさかんに声をかける。

「ちょっと来なさい、そこのあんぽんたん…」

手招きを何度も何度もするけれど、

やがて、その幻影は、…消えた。

医者らしい若い女医さんが耳元まできて声をかける。

「どうしてここにいるかわかりますか」

「…わかります。」

「よかった。」


数日前、いやたぶん昨日かもしれない。

私は、フィアンセの長谷川と行き違いのけんかをした。

さみしさでいっぱいで、泣きながら部屋で大量の薬を飲んだ。

もう、わけがわからなくなっていた。

二度と逢うことができないのなら、いっそ…と半ばやけくそも入っていた。


そうして気がついたら、ここに、いた。

40度の熱がなかなか下がらないようで

体のあちこちにが氷のうだらけだった。


そんなこと、理由にはならないかもしれないけれど、

恋をする時は、命がけなのだ。

そういう性格なのかもしれない。


やがて熱が下がったということで

一般病棟にしばらく入院となった。

そこで私は不思議な体験をした。


長谷川がいたのだ。

私の担当の看護師として。

私は自分の目を疑った。

だが、どうしても”その人”は長谷川とうりふたつだった。

検査のために血を取るということで注射をされた。

「少しチクッとします」

と”その人”は言った。

私は、注射が、やはり痛くて、横になってはいたが、

”その人”=長谷川に触れた。

ネームプレートにしがみついた。

その瞬間、”その人”は長谷川だった。

まぎれもなく、私の愛した長谷川だった、ように、見えたのだ。

髪型も、目も、背格好まで、長谷川とそっくりだった。


私は、目が悪い。

それ以来、私はメガネをかけるのをやめた。

長谷川に逢える…かもしれない。

長谷川と話せる…かもしれない。

メガネをかけなければ、”その人”は長谷川に、”見えた”のだ。


違う人だと認めざるをえない時がやってきた。

掲示板に病棟の職員のメンバー全員の写真が貼りだされていた。

”その人”は”長谷川”ではなく、別の名前だった。

メガネをかけてよく見ると、顔も姿も全然違った。


私は夢幻を見たのだろうか。

わからない。

それはわからないけれど、

私は、病院で、長谷川に看護されて、

倖せだった。





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