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プリン

セリフの違和感を修正しました。2017.0406

 特徴的な模様の、実物より圧倒的に短い首を掻きながら、先輩はハムサンドを食べ始めた。

 草食じゃないのかよ、とツッコミたかったのだけれど、キリンの被り物の口部分にある小さな穴から、器用にサンドイッチを食べる姿に見とれてしまい、タイミングを逃した。

 サンドイッチを細長くちぎって、穴に通してから中の口で食べているらしい。

 いやいや、その穴は空気吸う為の穴だから…それ被って食べられる設計じゃないから。


 「プリン食べます?」


 先輩はサンドイッチを食べながら、売店で買ったであろうプリンを差し出してきた。


 「いりませんが、先輩もプリン食べるんですね、意外です」


 「食べますよ。おいしいんだから」


 いや、僕が言いたかったのは、そのプラスチック製の短いスプーンで、ちょっと前に突き出ている被り物の穴からどうやって食べるんだってことなんだけど…まあ、いいか。


 「それで高宮くん、新人歓迎会なんですけど、来週の土曜日で大丈夫ですか?」


 先輩はプリンの蓋を開け、蓋の裏側にくっついているプリンを一瞬見て、ゴミの入ったビニール袋に入れた。

 目が少し潤んだような気がしたが、気のせいだろう。


 「すいません。バイトのシフトがまだわからないので、もう少し待ってもらえませんか?」


 質問に答えながらも、僕はプリンの行方が気になって上の空だった。

 食べる気なのも驚きだが、食べ方が気になる。


 「そっか。まあ、急いではいないけど、わかったら早めに教えてください」


 そう言いながら、プリンをスプーンで掬う。

 ついにこの時が来た。食べられる訳がない。

 それはつまり、どこかのタイミングで被り物を脱いで素顔を晒す、ということだ。

 もしここで先輩が被り物のキリンを脱いだら、今後プリンのことは『西洋甘味茶碗蒸神』として、崇め奉ることを約束しよう。


 ズボッ。


 音を立てながら、先輩はスプーンごと被り物の穴に手を突っ込んだ。

 まあ、なんとなく予想はしていたけどね…。

 穴に手は入りきらず、被り物が拳の形に凹んでいる。


 「先輩、めりこんでますよ…顔が」


 僕の冷静なツッコミに、先輩は何のことだと言わんばかりに小首を傾げる。

 そんなウルウルに塗装された目で見ないでくれ。あんた中身は男だろう。

 隣のテーブルに座っている女子グループの笑い声が聞こえた。君達も見ないでくれ。僕のために。


 恥ずかしさの誤魔化しも兼ねて、スマホのスケジュールアプリに新人歓迎会を追加した。

 5月の下旬になると、多くの新入生がサークルに入り終え、先輩方主催の新人歓迎イベントが開催される。

 いわゆる『キャンパスライフ』なら、さぞ楽しいイベントなんだろうけれど、残念ながら僕のそれは先月失くしてしまい、目下捜索中だ。

 キリン先輩のいる広告部に所属して以来、僕は学内でほとんど孤立している。

 学内で常にキリンを被っている変人と、その人しかいないサークルに入って仲良さそうにしている人がいると、どうやら他人には変人が二人に見えるらしい。

 僕にもそう見えるから、何も言うまい。


 先輩は新人歓迎会と言っているが、広告部にはキリン先輩と僕しかいない。

 つまり、新人で歓迎されているのは、僕だけだ。

 たった二人で何を催すつもりなのか、疑問しかない。

 とは言え、キリン先輩しかいないと知った上で広告部に入部した変わり者という点では、僕も同類なんだろうな。

 出来ることなら、あの日の僕に教えてあげたい。

 プリンを食べる時でも、それは外さないぞ……と。

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