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conference note ; 会議をします

ようやく新章というか、広告っぽい話になりました……。


ちょっとお堅い話が続くので、途中に用語などをいれた挿絵を挟みますので、ご参照くださいm(_ _)m

 「こういうのはどう? 『ズートビア』」


 「どういう意味? まさか、zooとbearでズートビアじゃないよね」


 「そ、語呂もユートピアに掛かってて良くない?」


 「……ちょっと安易な感じとインパクトに欠ける気がする」


 「……そういうアンタも何か案出しなさいよ」


 マウントレーニアのカフェラテのカップを、飲み終えているのか軽々と振りながら、倉永さんは呆れたように言った。

 土曜日に動物園でレセプションパーティーへ参加した後、その場で貰った企画概要を各自読み込み、月曜日の今日改めて部室に集まっている。

 僕は夜からバイトの予定もあるため、長引けば途中で退席するが、それにしても急な集合でも出席率100%というのは、みんな他にやることないのか、それともヤル気に溢れているのか判別がつかない。

 集まった名目は当然、動物園のイベントプロモーションについて話し合うことだ。

 これを会議と言っていいのかは大いに疑問だが、少なくとも話題が世間話ではないだけ井戸端会議よりはまともな会議と言える。

 ただ、会議を始めてかれこれ30分ほどになるが、主だった発言は倉永さんで、五条さんからは『お疲れ様です』というメールの通知音ほどの短文しか聞こえてこない。

 マウントレーニアのカップを振りながらな倉永さんが僕に求めているのは、企画概要で未定となっていたイベント名だ。

 集まって早々、何から始めたら良いかもわからず会議は漂流し、とりあえず名前からという潮流に乗ったものの、現在進行形で漂流している。

 ああ、そうそう、案を求められているんだった。


 「……出てこないな」


 「ほら、人のこと言えないじゃない」


 我ながら、発想力の乏しさに驚いているのだからそっとしておいてほしい。

 ただ、倉永さんが発案を促すことに納得している。

 先述の通り『とりあえず名前から』決めることにしたのだ。

 つまり、会議はまだスタート地点から一歩も進んでいない。


 「お二人共、ヒートアップしているところ申し訳ないですが、ちょっと待ってください。そもそも、なぜ名前を先に決めるんですか?」


 全然ヒートアップしていないのだが、会議冒頭から静観していたキリン先輩が、やけに掌を平らに揃えた右手を挙げてから発言した。

 先輩の考えは読めている。

 僕らの自主性を見るために、進行が止まるまでは介入しないつもりだったのだろう。

 とにかく、助かったと思った。

 発言のタイミングが神がかっているからか、掌の揃い具合が仏なのか、とにかく先輩が神々しく見える。

 ただ、なぜ名前からかと問われても、名前がなかったから、としか言いようがない。

 そう考えるとあまりにも中身が空っぽすぎて、僕らは集まった意義が欲しくて無理矢理に会議らしさを演出しようとしていただけのようにも思えてくる。


 「先日頂いた企画概要にイベント名も未定だったので、まずは名前からかなと思って」


 どう聞いても言い訳なのだが、事実だから仕方ない。


 「なるほど。そういうアプローチもないとは言いませんが、今回の案件には合わないと思いますよ。もっと先にやるべきことがあります」


 「……どういう広告を出すか決める、とかですか?」


 倉永さんは少し考えて答えたが、彼女もまた僕と同じで何から手をつけて良いか分からなかったのだから、キリン先輩の言うやるべきことを知っているはずがない。


 「それはもっともーっと後です。企画概要には、このイベントだけでなく多摩動物園に関する情報がたくさんありますよね。これについては何も話さなくて良いんですか?」


 「資料ならちゃんと……」


 キリン先輩は怒っているわけではないのだけれど、倉永さんは自分たちが何も出来ないでいることに苛立ち始めているようだった。

 先ほどよりも口調が強くなっているように感じる。

 あまり激しくなるようなら制止しようと思っていたところで、意外なことに口を開いたのは五条さんだった。


 「な、何を話すんでしょうか? 資料の内容は理解しているつもりなのですが」


 彼女もまた、倉永さんほどとはいかないまでも、口調には焦りや苛立ちを含んでいるように感じる。

 それになにより『お疲れ様です』に比べれば、言葉数もかなり多い。

 なるほど、僕が冷めていただけで、会議はちゃんとヒートアップしていたのか。


 「そうですね、例えば……資料には予想される主な客層が20代から50代の男女とありますが、ちょっと幅が広いですよね。具体的に来園しそうなのはどんな人たちだと思いますか?」


 「……小さな子供のいる家族でしょうか?」


 「倉永さんはどうですか?」


 「若いカップルが多いと思う」


 「高宮くんは、多分サラリーマンのグループだと思ってますよ」


 そうでしょ?と言いたげな様子でこちらを見ているのが癪に障るが、言い当てられてぐうの音も出ない。

 確かに先輩の言う通り、


 「……動物園のイメージじゃなくて、ビアガーデンで客層を予想していました」


 3人の想定していた客層がこれほどバラバラだったことに驚いたのと、ここまでヒントをくれれば、キリン先輩の言わんとすることも予想できた。


 「みなさんがそう思うのも無理はないんです。元々動物園に興味のある人と、ビアガーデンに興味のある人は必ずしも似ているとは限らない。むしろ、その逆だと思われます。つまり、資料をただ読むのではなく、そこから得られる情報の整理と共有がなにより先に必要です。そして、それを基にやるのが……」


 予想通り。


 「ターゲティングですね」


 先輩がホワイトボードに文字を書き終わるより先に、書こうとしていることを口にした。

 もちろん、さっきの仕返しのつもりだ。

 これはまだ倉永さんと五条さんが入部する前、あるCMが『誰に対する広告なのか』を言い当てるゲームをした時に出てきた言葉だ。

 正直、まだ具体的には知らないのだけれど。


 「……ターゲティングをします。ネーミングや媒体、コピーを考えるのは、それからです」


 ……僕が言いましたけど?

 華麗にスルーされた僕の発言を他所に、『ターゲティング』という明確な目標が見えたことで、倉永さんも五条さんも具体的な部分を深掘りしようと資料を見返しだした。

 キリン先輩という推進力を得た会議がスムーズに進むことを願おう。

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