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死神の息子  作者: 紫煙
1章 発端
9/10

ドクタージョーク  その3


「おい起きろ、起きろって」


……なんだ?体が揺すられてる?


誰だよ。

まだ眠いんだよ。


むっさんか?むっさんなのか?むっさんだったら鳩尾みぞおちに蹴り入れてやるからな?


瞼を開けると、骨が僕の身体を揺すっていた。

骨みたいなって比喩じゃない、正真正銘の骨だ。

肉が一切ついていない骨だけの手が僕を揺すっていた。


あの骨野郎め、何の用だよ。


なんでまた起こすんだ。いつもなら、学校に遅刻しそうになっても絶対起こさないで、慌てふためく僕をにやにやして眺めてるのに。

今日に限ってなんなんだよ、まったく……。


「……なんですかね?」


不機嫌全開で言ってやった。


「お前……その頭、どうした?」


グリムが不思議そうに尋ねてくる。

……頭?触ってみると布っぽい感触がした。


……ああ、壮也さんが巻いてくれた包帯か。

突然、自分の息子が頭に包帯巻いて寝てたら不思議に思うよな。

しかし起こすなよ……ああ、眠い。


「こけた」


眠いので過程をすべてすっ飛ばした簡潔な説明をしてやった。


「……にしては派手にやったな、おい」


グリムは心底呆れて、ため息交じりに言ってくる。

悪かったな、こんな息子で。


……ああ、文字のことを訊かなきゃ。


「なぁグリム、昨日の晩。あの子の寿命に文字が見えたんだが」


グリムが固まる。


「……まじで?というか、会った?晩に?……お前も、やるようになったな」


色々と勘違いしているようで、にやにやしている。

なんにもやってないって、やってないから童貞なんだよくそったれ。


「多分お前が想像した事は、何にもしてないぞ」


「なんだ、つまんねぇ」


うるせぇ。


「話を戻すけど、あんのうんって文字とでぃ…でぃなんとかって文字が見えたんだが」


「ふむ……なるほど」


「どういうことなんだ?」


「さっぱりわからん」


グリムはさも当然の様に言い放った。

この骨野郎、全く役に立たないな。


「それ以外に変わったことは無かったか?」


「ああ、あんのうんが見えたら、寿命が急に4秒になったんだよ」


「ほう?それで、助けた結果が頭に包帯巻いた訳か」


「良く分かったな……でも、その後寿命が元に戻ったんだ」


「……元に戻っただと?」


グリムの顔が険しくなる。その表情に圧倒され、思わずたじろいでしまう。


「あ、ああ」


「どういう事だ……戻るって事はだ……いや……しかし」


グリムがなんかぶつぶつ言ってるので、とりあえず放置しておく。


役に立たなくても、煙草ばっかり吸ってても、見た目がただの骨でも一応こいつは死神だ。


この右目で見える事に関しては僕よりもずっと詳しい。

だからこいつの考えがまとまるまで、こうしておいた方がいい気がした。


窓の外を眺める、朝の眩しい日差しが辺りを照らしていた。


もう朝か。


ということは、津川の寿命はあと91日になったのか。


こんな風に朝と夜を91回繰り返せば、津川は死んでしまう。

どうすればいい?どうすれば助けられる?


「……伸治」


名前を呼ばれ、反射的に振り返る。


グリムは何かに気付いた様子だった。


「お前、死ぬ覚悟はあるか?」


「……は?」


この骨野郎はいきなり何を言い出すんだ?


「お前の好きな子を助けるために、死ぬ覚悟はあるかって聞いてんだ」


「ああ、そういうことか」


「それで、どうなんだ?」


死ぬ覚悟か、そんなものは当然できていない。

でも、生きたいと思った事は無い。

別に死んでもいい、むしろ死にたいとも最近考えてる始末だ。


「ああ、別に死んでもいいよ。いつも言ってるだろ?誰かを助けれるなら死んでもいいって」


それを聞くと、グリムは少し寂しそうな顔をした。


「……そうか、なら教えてやる。助ける方法を」


「方法?」


「お前がその子に近づけば、今回みたいに突発的な死が襲ってくる。その度に助けりゃいいんだよ」


「……それだけ?」


「ああ、”人の業”から助ける分にはそれでいい」


人の業だけ?


「人の業からって事は、ほかになんかあるのか?」


「それは、その子自身の問題だ。お前がどうこうできるもんじゃない」


「津川自身の問題……か」


津川の死の映像。


崩れ落ちるように倒れる津川。


やっぱりあれは、病気か何かなんだ。


津川と久しぶりに話した時に、気付いた。


あいつは元から細かったが、昨日あいつが僕の肩を叩いた時に見えた。



病的に細い腕。


筋が異様に浮き上がり、指は骨の形がはっきり見えるほど肉が無かった。



あいつは……何かに蝕まれてるのか。


僕じゃ救うことができない、何かに。


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