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死神の息子  作者: 紫煙
1章 発端
6/10

板 その2


「いやぁ……迷子になって携帯見ると、電池切れてて焦った焦った。あはは」


僕の隣を歩きながら、津川つがわは楽しそうに笑う。


津川つがわむらさき、僕と同じ学校の同じ学年の2年生。


僕が好きな女の子、



92:00:05:41


そして92日後、彼女は死ぬ。



推定150cmくらいの身長で、身体はかなり細い。美人というより、愛らしいタイプって感じの顔だ。一重の目で優しそうな眼、少し高い鼻、可愛らしい唇、白い肌。




そして、虚無の領域にある胸。


もはや板である。本当に胸が無い。控えめとかそういう例えじゃないんだ。板なんだよ、板。もう膨らみとかそんな話じゃなくて、ストンって感じなんだよ。まな板、スキー板、ベニヤ板。ありとあらゆる板と名の付く物の様に、胸が無い。マジで、板だ。


「焦ったじゃすまないだろ…もしかして、学校終わってからずっと迷ってたのか?」


津川の服装は制服だから、そうとしか思えないんだけど。


日頃から制服を着ている高校生なんていない。いたら何で着てるのか詳しく説明してくれ、原稿用紙5枚に詳しく理由を書いてくれ。


「そうなのよ。もうずっと歩きっぱなし。いい運動になったわね」


過度な運動過ぎるんですが。


苦笑いしながら僕の携帯をみる……まだ電波は来ないか。


あの公園は電波が入らないから、佐々木家の方向に向けて歩いている。


津川の親御さんが心配してるだろうし連絡を入れないと。


「川島、ギター弾けたんだね。驚いたわよ、なんであんなとこで弾いてたの?」


心底不思議そうに尋ねてくる、まあ当たり前か。深夜に一人で公園でギターを弾くなんて、不審者かミュージシャンかぶれぐらいなもんだ。


「家で弾くと周りの人に迷惑だからな、あの公園ぐらいしか弾ける場所がないんだよ」


「ああ、むっさんの家に住んでるんだっけ?そりゃ弾けないわね」


そう言うと、何かを思いついたような顔をして、


「でも、凄く綺麗な音だったよ」


……あ、聞かれてたのか。うわ、恥ずかしい。


「まだまだ下手くそだよ」


津川はニヤニヤしながら、


「まーたまた、謙遜しちゃって」


からかう様にこっちを見てきた。くそ、めっちゃ恥ずかしいぞ。気を紛らわすために携帯を見る……あ、1本立ってる。


とぎれとぎれにある電柱に付いている街灯の下で止まって、


「ほら、電波入ったから使えよ」


言いながら津川に携帯を差し出す。


「おお、ありがたいねぇ。じゃあ、ちょっと借りるね」


僕から携帯を受け取ると、電話番号を打ち込んで、耳に当てた。


「……もしもし?うん。あたし……ごめんごめん自分の携帯電源切れちゃってさ……」


電話越しでも声が聞こえるくらい向こうは怒っていた。


そりゃそうだ、11時だぞ?女子高生がうろつく時間にしては適していない。男子高校生がうろつく時間にも適していないぞ僕よ。


「……うん、ちょっとまって。川島、ここどこ?」


……ああ、こいつ迷子だったわ。


口頭でここらへんの住所と今いる道を伝えるが津川は困った顔をして、


「……めんどくさいから川島が伝えて」


と言うや否や、携帯差し出してくる。


……マジか。


断るわけにもいかないので、渋々携帯を耳に当てる。


「もしもし?」


「あ、もしもし。紫のお友達?ごめんね紫の放浪に巻き込んじゃって」


放浪って……いや、間違っては無いけどさ。もうちょっと別の言い方あるんじゃないの?


しかし聞こえる声はかなり若い。お父さんにしては若すぎるが……彼氏か?うわ、嫌だ。


「いえいえ、今いる住所を言いますね?えーと高松市……」


「……OK、今から迎えに行くよ。着くまで一緒にいて欲しいんだけど、いいかな?」


少し不安そうな声、別に構わない。津川と一緒に居れるし。


「はい、大丈夫です」


「ありがとう、じゃあ急いでいくから待っててね」


声の主は急いだ感じでそう言うと、電話は切れた。


……そういや津川の家ってどのへんだろう?知らないや。


「お前の家ってこっから近いの?」


「分かんないから迷子になったのよ」


……ですよね。


「それで、何て言ってたの?」


「迎えに来るから待ってろ、だって」


「ふーん、その待ちぼうけに川島も巻き込まれたのね。まったく……なんでこうなったのかしら」


あなたが迷子になったからですよ。


「じゃあ来るまで暇だから、ギター聴かせてよ」


何故そうなるんだ。


「やだ」


「なんでよ!いいじゃんちょっとぐらい、減るもんじゃないんだし」


僕の心がすり減ります。


「それでも嫌なんだよ」


どれだけ頼まれようが、絶対弾かない。そんな鉄の意志が僕の中にある、だって恥ずかしいもん。


「むー……」


津川が唸る、お前は犬かよ。


……そういや津川とこんなに話すのも久しぶりだな。


一年生のころは結構話してたけど、こいつに彼氏できたんだよな、めっちゃイケメンの。


そこから津川は彼氏と一緒にいるようになってあまり話さなくなったんだっけ?ああ…世は非情なり。


さらにその後、僕に死神のあだ名が付いて学校で腫物を触るような扱いをされ始めたから、僕自身がむっさん以外の人間とは話すのをやめたんだっけか。


ああ、神様よ。あんたはやっぱりくそったれだ。


睨む津川を無視して、僕は道路に座った。


なんとなく、電灯の光で照らされた津川を眺める。


こいつ……少し痩せたか?これ以上痩せると胸に穴が開くぞ……胸に穴って開くのか?……やめよう。可哀想に思えてきた。


……後、何分待つんだろう…5分?10分?電話の相手に聞くのを忘れてた。


津川に聞いても分からんって言うだろうな……家の周りに目印になるものがあれば分かるんだが。


「家の周りに目印になりそうなものって、なんかある?」


「なんでそれを聞くの?……あたしに興味があるとか?」


ニヤニヤしてやがる。


ええ興味はありますとも。しかし今はそういう意味じゃないのだ。


「迎えが来るまで何分くらいかかるか知りたかったんだよ」


そう言うと、何故か少し残念そうな顔をして、


「ああそういうこと。えーと、近くに小学校があったわね。名前は確か…は…はな?」


「花小か、じゃあ20分くらいで来れるな」


はなで分かった。僕の住む県には、花と付く小学校は一つしかない。昔そのあたりに住んでいたから尚更だ。


「おー、よく分かるわね。流石地元民」


「まあずっと住んでますから?」


ずっと住んでいる、この土地に。この何もないクソ田舎に。うどん以外何もない場所に。うどん県?どうしてそうなったんだ。


しかし20分か、そこそこ長いんだよな20分って。カップラーメン6個とちょっと作れるくらいの時間か。うむ、そんな例えしか出せない自分の浅はかさに涙が出そうだ。


「……川島ってさ」


どうでもいいことを考えていると、津川が何か言いかけた。


その時。






「……うぐぅ!!!」


あの痛みが、右目を貫く悍ましい激痛が僕を襲った。


……くそ!……まて!今襲ってくるって事は?!


「ちょっ、大丈夫?!」


津川が慌てて駆け寄ってくる。


その時、僕の右目が異変をとらえた。





Unknown

00:00:00:04


……文字?!


しかも……4秒?!まて!あと92日あったはずだろ?!ふざけんな!




そして、死の映像が僕の脳へ直接流れ込んでくる。


折れて何かを下敷きにした電柱。


下敷きにされた何かは、あたり一面に血をぶちまけていた。




なんだよ……一体これは、なんなんだよ?!


00:03


とにかく、どうにかしないと!


00:02


歯を食いしばり、襲ってくる痛みを堪えて、地面を蹴とばす。


00:01


その勢いのまま、津川の身体を押し、吹き飛ばした。


「ちょっ…」


そんな声が聞こえた。


すまん、これしか浮かばなかった。


00:00


突然、何かが砕ける音がした。


折れて倒れてくる電柱が見える。


倒れてくる方向は……僕のいる場所だった。



……死んだな、これ。


グリム、迎えに来る時に泣くなよ?


凄まじい音と共に、電柱はアスファルトの上に倒れた。

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