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死神の息子  作者: 紫煙
1章 発端
3/10

易簀 その1

前回のあらすじ。

見ちゃった。

それでは、お楽しみください

……ああ……暑い。


……汗が…汗が止まらない。


……溶ける、色んなものが汗とともに僕の身体から溶けだしてる気がする……。


……色んなものってなんだ?水分、塩分、体力、やる気、元気、性欲……最後のは違うか。


ポケットから取り出して携帯を開いて時間を確認する。

ガラケーです。取り残された携帯、ガラパゴスケータイです。

はい、スマホ高いです。


画面に映し出された時間は、12:34。


普通なら学校でむっさんと昼飯を食べている時間だけど、僕は学校をサボって帰路を辿っている。


つまらない学校から解放されるのは嬉しい、けどくっそ暑い。

ちくしょう、冷房完備のつまらない学校が素敵に思えてきた……。


汗だくになりながら、昼間っから家に帰っているのには理由がある。


右目があの子の死を映し出した後、授業なんて受ける気なるはずもなく、嘘の体調不良を担任に訴え学校を堂々と正門から逃げ出してきた。


まあ本当に体調は悪い。

体力は右目にごっそり持っていかれたせいで顔色は真っ青で、目の下にクマまでできている、そして真っ赤に充血した右目。


そんな僕の顔を見た担任は一言。



『帰れクソガキ』



教師にあるまじき暴言を吐いたのだ。

しかし担任の口の悪さはいつもこんなものだったりする。


……でも生徒に暴言吐きまくる教師ってどうよ。

そんなやつが何故教師をやれているのか誰も知らない、世界は謎だらけだよな。


……家に帰る理由は体調不良だけじゃない。

あいつに、死神グリムに聞きたいことがあった。




あの時、映し出された寿命。



92:15:00:08




あの8桁の数字、あんな数字今まで見たことが無かった。


この右目の持ち主の、死神ならこの疑問の答えを知っている…知ってるはずだ……知ってるのかな。

……知らない気がしてきた。まあいいや、聞けばわかる。


答えを一秒でも早く聞きたいけど、足は重くゆっくりとしか動かない。

もう体力が殆ど残って無いみたいだ、そして暑い。


暑さと体調の悪さのせいで滝の様に流れ出る脂汗と冷や汗、そして錘でも巻き付けられたんじゃないかと思うほど重い足を引きずりながら、ふらふらする体を必死でコントロールして、ひたすら歩く。



……これ、無事帰れるのか。



プップ―!


すぐ後ろでクラクションが鳴らされた。

別に道路の真ん中を歩いてるわけでもないし、何故鳴らされたのだろうか?僕が不審者にでも見えたのかな……危ない人にでも見えたのかな。


気になったので後ろを向くと、見慣れた軽自動車が止まっていた。


運転手が僕に手を振りながら僕の隣まで車を進めて、窓を開ける。


「伸治君、やっと見つけた!ほら乗って乗って!」

 

そこには、まぶしい笑顔とともに助手席のほうを指さす天使がいた。


佐々ささきもん(21歳 大学生)、むっさんの姉で、この閑散とした現代に、救いを与えるために舞い降りた天使である。


―――――――――――――


車内に乗り込むとエアコンがガンガンに効いていて、汗をかきまくっていた僕には寒く感じた。

ああ、近代文明最高。


「武蔵から伸治君が早退したって連絡受けたから、買い物の帰りに拾いに来たのよ。」


天使は運転しながらこっちを見ると、とてつもない破壊力のウインクをしてくる。

その破壊力は、僕の心を揺さぶり、脳みそまで震えさせた……ああ、もう死んでもいいや。


「なんかすいません……ご迷惑おかけしちゃって」


むっさん連絡してくれたのか……ありがたい、今度筋トレに付き合ってやろう。


「いいのいいの、買い物の帰りだったし」


そう言いながらハンドルを握る紋さんの横顔は、天使だった。うん、マジ天使。


紋さんは美人だ、それもとびっきりの。

セレブ向けのファッション誌に出てきそうなくらいの美人さんである。

すこし強気な感じに見える顔つきだが、それぞれのパーツが素晴らしい。二重で大きく見える目は、吸い込まれそうになるほど綺麗だ。整った鼻筋と、控えめな感じの唇は綺麗なラインを描いている。そしてすべてのパーツが綺麗に配置されているのだ、素晴らしい。短めに切られた黒髪は、ボブカットというらしく、グリムが教えてくれた。またその髪型が似合っているのだ、うむ。素晴らしい。


そして推定Dはあるだろう豊満な胸にスレンダーな体。

お尻の方も言わずもがな。

うむ、エクセレント。

まさに天使。


すれ違った男達皆が振り向く程の美人さん、その美貌からか紋さんはかなり有名であり、色んなTV局が紋さんに番組に出演してくれと頼んだり、ファッション雑誌のスカウトも絶えない。遠く離れた県から紋さんを見に来たという話も聞いたことがある。


なぜこんな人の弟が、あんなむさくるしいゴリラなんだ。うぅむ……世界最大の謎だ。


その天使が今、僕の隣に座っている。


いや、僕が天使の隣に座らせて頂いている。


まさに至福!こんな幸せ感じていいのでしょうか、良いってだれかに言ってほしいな。

いいよね、うん。


「……よし、着いた」


運転している紋さんを横目で見ていたら、そんな言葉が飛んできた。


紋さんの見ている方向を見ると、佐々木家と書かれた表札が鎮座していた。


……もしかしてそんなに紋さんを眺め続けてた?

……いや、車に乗った場所が家に近かっただけじゃないか。


よかった、そんなに長い間見つめてたらちょっと自分に引くわ。


「ありがとうございました」


シートベルトを外しながら、紋さんに頭を下げる。


「もう、ほんと伸治君は他人行儀よね……もうちょっと気楽に接してくれてもいいのに」

 

紋さんが困ったように笑う。

すっげぇ可愛い、見てるだけで死にそう。


「荷物、持ってきますね」


車の外に出る時、後部座席に置いてあったビニール袋を持っていく。


中には食材やら日用品やらが入っていた、今日の晩御飯の食材だろうか。

……しかし重いぞ、疲れすぎて軽いビニール袋を持つ力まで無くなってるみたいだ。


「ありがと、でも玄関まででいいよ。伸治君……顔色酷いから早く部屋戻って寝ないと」

 

紋さんが心配そうな顔をする。

そんな顔も可愛いです。


『佐々木』と書かれた表札の横にある、古い日本家屋によくある引き戸を開ける。ここがむっさんや紋さん達佐々木家の家。


見た目は、THE 日本家屋。

日本の伝統的な感じの家だ。


田舎特有の土地の安さからか家はデカい、都会の一軒家10件分くらいはある。


そして古い、佐々木家が代々ちょっとずつ直しながら住み続けているらしい。


こういう感じの家はなんとなく好きだ、妖怪とか出そうだし……変なやつなら俺の部屋にいるか。


だだっ広い玄関にビニール袋を置くと、僕は自分の部屋に行くために引き返した。


……その前に、


「それじゃあおやすみなさい」


頭を下げながら紋さんに言った。挨拶って大事じゃん?


「おやすみ、伸治君。また明日」


紋さんは笑いながら返してくれた。

我が人生に一片の悔いなし、でも死にません。


佐々木家の敷地内にある離れに向かう。


そこが『僕の部屋』で、『僕の家』でもあるんだ。


ちょっとした諸事情により、10年前から佐々木家にお世話になっている。

むっさんのお父さんは佐々木家本棟の広い部屋を使いなさいと言ってくれたけど断った、そして使ってなかった小さな離れに住まわしてもらっている。


断った理由は、佐々木家の皆には色々とお世話になっているのに、僕みたいな部外者が広い部屋を使うのは申し訳ないと思ったのと、『同居人』と喋る時に周りに人がいると色々とややこしくなってしまうからだ。


ガタついたドアに手をかける……開かない。


離れはかなり古いので色々ガタが来ている。

このドアも簡単には開かない。


開けるには、両足でしっかり地面を踏み、歯を食いしばり、両手でドアを掴んで、全身の力を使って思いっきり引く。


こうしないとびくともしないんだ、ドアのくせに。


ガガッ!ガガガガガガガガガッ!!


嫌な音を鳴らしながらドアはゆっくり開く。

中に入って閉めると、すんなりと閉まった。


……何故かこのドアは閉まるときはすんなり閉まるんだよなぁ。

僕に対する新手の嫌がらせか?


……まあいいや、今度直そう。


靴を脱ぎ、中に入る。


中は4畳一間の小さな部屋。

トイレと風呂は、佐々木家が住んでる本棟にしかないのでそっちに行かなきゃならないけど、僕はこれで充分だ。住まわせて貰ってるだけでもありがたい。


部屋の隅に鞄を置き、窓際に座る。


そして、



窓の傍に置いてある椅子に座って、窓枠に肘をかけて外を眺めている『同居人』に声をかけた。



「ただいま、グリム」



髑髏はゆっくり僕の方に振り向き



「おかえり、伸治」



肉が付いていない骨だけの手を上げて、そう言った。




――死神、名前はグリム。




僕の同居人であり、僕の育ての親でもある。



そう、こいつは僕の親父だ。

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