シャナル王子-9
リアの青い目が、きょとんと僕を見下ろす。
すんだ青空のような目だ、と思う。
リアの心にふさわしい、穢れのない目。
僕みたいなのが、この目に見つめられたいって願うのは、いけないことなのかな。
リアに好きになってほしいって思っているくせに、リアに嫌われるってわかっていることをする僕は、きっとリアにふさわしくない。
でも、ふさわしくないからって、あきらめるなんてごめんだ。
人間、自分にふさわしいものしか欲しがらないんじゃ、ダメだと思うんだよね。
諦められないものは、あきらめられない。
欲しがらない人間は、なにも得られない。
自分にはふさわしくないものだって、当然みたいに欲しがって、手にいれる。
じゃないと、分相応以上のものを欲しがる人間にふみつけにされて、なにも得られない。
でしょ?
例えば、「王」なんてシステムそのものが、人間のあきらめの悪さを示していると思うんだ。
大きな力で守られて、平和で、豊かに暮らしたい。
自分たちだけの力じゃそれは難しいから、強大な力を持つ「王」にそれを強いる。
外敵から自分たちを守れ、土地を豊かに保て、災害を退けろ。
対価は、いくばくかの富と「敬意」。
そんなの無意味だって「王」が言うことは許されない。
なのに、当たり前のように民はそれを王に強いる。
リアも同じだ。
自分は貴族としての責務を果たしながら、王にはそれ以上の強大な力で、民を守るよう希う。
彼らにふさわしいのは、自分の力で得られるだけの平穏で、それ以上を望むのは不相応だって切り捨てない。
だったらリアは、実力以上のものを欲しがる人間を認めているってことだよね?
だったら、僕が。
リアに愛されない……、他の誰にも、魔力以外の価値を認められない僕だって、誰かをほしがってもいいってことだよね?
「ふだんなら、ね。スペアの王子なんて、いなくても困らないかもね。でも、今は。国境障壁が壊されて、民が動揺している今、スペアの王子がいなくなったら、民はこの国が神から見捨てられたって思うかもね?」
リアの沈黙がいたたまれなくて、僕はたたみかけるように言う。
ねぇ、リア。なんとかいって。
じゃないと僕は、自分が持ち出したこの賭けを続けられそうにないよ。
「リアはいつも、貴族としての責務を果たすの、がんばっているよね?だったら、これも責務のひとつだと思えない?ガイ・ハッセンのことを忘れて、僕のことを好きになってってまではお願いしないよ。でも、……僕の傍にいて。僕のお嫁さんになって。それだけで、いいから」