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「もちろん、王子として敬愛しておりますわ」
笑顔をとりつくろって、言う。
それは本当のことなのに……、先ほどのクノエ様のお言葉が胸によみがえって、顔がこわばった。
尋ねてきたのは、王子宮の小翼のひとりで、好奇心いっぱいの表情をうかべていた。
さきほどのクノエ様とは違い、その言葉に深い意味などないのだろう。
けれども、それだけに、その言葉に遠慮はなかった。
「えー。そういう意味じゃなく、男の子として、だよ。いいじゃん、いまここには小翼しかいないんだよ?ぶっちゃけていこうよ!」
一人が、そう言えば。他の小翼たちもわっとわたくしを取り囲んで、口々に言う。
「わたくしたち、すっごく気になっていましたの!でもリーリアが王子宮に来られるときは、ふだんは王子のお傍にいらっしゃるでしょう?こんなことお聞きできませんもの。今回の機会に、ぜひぜひ聞かなくてはと思っていましたの!」
「わたし、庶民の出身なんですけど、街でもすっごく噂になっているんですよー!王子とリーリアの魔力差恋愛って。実際のところは王子の片思いっぽいなぁって見ているんですけど、どうなんですか?」
「え……」
ひとりの小翼の言葉に、わたくしは顔から血の気が引くのを感じた。
街で噂になっているって……?
わたくしと、王子のことが……?
その小翼は、わたくしの顔色が変わったことに気づいたのだろう。
しまったという表情になって、それから話を変えた。
「実際、シャナル王子って、すごい美形だし。将来有望ですよ、ね!」
「王子は……、まだ8歳だわ。わたくし、15歳です。王子として尊敬はしておりますし、良い方だと思っていますけれども、恋の対象にはなりませんわ。皆様だって、そうでしょう?」
街の噂というのを、聞きたかった。
けれども、口を滑らせたとはいえ、相手は同じ小翼だ。
言うべきでないと判断したのなら、それ以上の話は聞けないだろう。
……それに、彼女の、まるで噂のことをわたくしが知っていて当然とでもいうような態度。
おそらく、街ではそうとうに広まっている噂なのだろう。
なんてことなの。
しょせん、噂は噂だ。
根も葉もないというわけではないけれども、実情が知れれば、あっという間に鎮静化されるだろう。
王子の恋愛の話というのは、古今東西好まれる話題だ。
きっと王子とわたくしの年齢という重要なファクターが欠けて、広まった噂なのだろう。
当の王子が8歳で、わたくしが15歳だと知れれば、ほほえましい話題として忘れられていくはずだ。
噂については、家に戻った時に、エミリオに聞いてみよう。
エミリオが知らなければ、カーラに頼んで、誰かに調べてもらう。
そして、対策を練ろう。
それよりも、いまは王子宮の小翼たちだ。
幸いここにいるのは、15歳から19歳までの女性の小翼ばかり。
クノエ様たち大人から見れば、わたくしと王子の年齢差も些細に感じるのかもしれないけれども、同じ年頃の女子ならば、8歳の男の子を恋愛対象として見るなど考えられないということに同意してくれるはず。
自信をもって、わたくしは問いかけた。
けれど、王子宮の小翼たちは、顔を見合わせて、「えぇ?でも、ねぇ」という。