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図書室で、本を返した。

司書にわたくしの名前と、「シャナル王子からお預かりした本です」と伝えると、司書の目つきが変わった気がした。


クノエ様が、あんなことをおっしゃるからだわ。


シャナル王子が、わたくしの名前をあちこちでおっしゃっていることはわかっている。

わたくしのことを好きだとか、お嫁さんにしたいとかおっしゃっていることも。


けれども、文化部の方たちやお父様やお兄様たちも、みんな「王子は子どもだから」とおっしゃっていた。

ほほえましい、子どもの願いだと苦笑していらした。

お父様は一時期、王子のお言葉が一過性のものであると周知につとめていらっしゃったみたいだけれども、そもそも王子の年齢とわたくしとの年の差から、本気で取り合おうとする官吏などいなかったよとわらっていらっしゃった。


そう、だって王子はまだ8歳だもの。

ご両親とお別れになっての寂しさを、王城で親しんだわたくしにお母様の面影を重ねることで紛らわせていらっしゃるだけだわ。

「お嫁さんになって」なんて、「寂しいから傍にいて」という意味と同じ。

真剣にとりあって、わたくしと王子の将来を考えようとするクノエ様達のほうが、おかしいはず……。


けれど、わたくしの意識が変わったからなのか。

その司書がまるでわたくしのことを観察しているように見えて、こわくなる。


司書の視線から逃げるように、そそくさと図書室を後にする。

けれども、廊下をすれちがう官吏たちまでもが、わたくしを観察しているように思えてきた。


気にしすぎだわ。

そう、わかっているけれども。

王子宮にむかう足取りは、はやくなる。


王子宮に戻ると、シャナル王子とハウアー様はまだ戻っていらっしゃらず、クノエ様は休憩中だという。

その場にいらした侍官の指示に従い、王子の寝室へ行く。


寝室では、王子宮の小翼や、シスレイがせわしなく動いて、部屋を整えていた。

シーツを取り替えたり、家具を拭いたりという家ではメイドがする仕事も、ここでは侍官がすべてをおこなう。

慣れないシスレイが、からぶき用の布をもって、懸命に家具をみがいているのを見ると、ほっとした。


「あ、リーリア」


わたくしが入室したことに気づいたシスレイが顔をあげ、にこっと笑う。

わたくしはシスレイに笑顔をかえすと、王子宮の小翼に視線をうつした。


「リーリア・ハッセン、ただいま戻りました。こちらのお仕事をお手伝いするよう申し付かっております」


「おかえりなさーい!大物の掃除はだいたい終わりだから、ライティングテーブルの小物の整備をお願いできる?」


「かしこまりました」


紙類や筆記具を確認するが、特に補充が必要なほど減ってはいなかった。

インク瓶を磨いたり、ペンの軸を磨いたり、ペン先を整えたり。

こまごまとした作業をすると、ざわついていた心が落ち着いた。


けれど、そんな穏やかな気分も、あっさりと打ち破られる。


「ねぇねぇ、リーリア。リーリアって、本当のところ、シャナル王子のこと、どう思っているの?」


心臓が、ひやりとした。


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