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「リーリア。わたくしたちも努力はしているわ。けれど、王子がお心を許すおつもりがあるのは、あなただけなのよ」


クノエ様は諭すように、言う。


「王子は、あなたのことがお好きなの。とてもとても愛しいのだと、あなたに側にいてほしいのだと、よくおっしゃっているわ。……だからわたくしたち侍官は、あなたが王子宮にいてくれて嬉しいのよ」


「……それは、どういう意味ですか」


その言葉に隠された意味に気づき、わたくしはぎゅっと手を握りしめた。

クノエ様は、にっこりと笑って、首をかしげる。


「今のところは、ただそれだけよ、リーリア。……さぁ、その本を図書室へもっていってちょうだい。お願いね」


わたくしは一礼すると、本を抱きしめて図書室へと向かった。

「今のところは、それだけ」とおっしゃったクノエ様のお言葉が頭の中で繰り返される。

では、将来は?なんて訊かないけれども。


あれは、王子宮の侍官の総意なのだろうか。

それとも、クノエ様の一存なの?


どくんどくんと心臓が大きな音をたてる。


これまでわたくしは、シャナル王子に何度「お嫁さんになって」と言われても、お断りしてきた。


相手は8歳の子どもだ。

王子の想いが真摯なものであっても、わたくしが恋をする対象にはなりえない。


だから、それでいいのだとおもっていた。

王子のお申し出をお断りすれば、すむ話だと。

なんといっても、王子はまだ子供なのだからと。


けれど……、王子宮の侍官たちは、そうは思っていないのだろうか。

シャナル王子より7歳も年上の、王族になるには魔力量が足りないわたくしを、王子の恋人にと望んでいる?


馬鹿馬鹿しい、と思う。

母親への思慕がおおきく混じったわたくしへの恋心なんて、あと数年もすれば王子はお忘れになるだろう。

侍官ならば、王子にふさわしい、年齢の釣り合った魔力量の多いかわいらしい少女を、王子に会わせるべきだ。

なのになぜ、わたくしと王子を……。


それが、王子の望みだからなの?


クノエ様たちも、シャナル王子を大切に思っていらっしゃるようだった。

例え王子のお気持ちが恋ではないとしても、王子のお心が安らぐなら、わたくしが王子の側にいればいいと願っていらっしゃるのだろう。


わたくししも、シャナル王子のお心をお支えしたいと思う。

でも。


わたくしが愛しているのは、お兄様だけだ。

例え王子が愛する少女を見つけるまでの数年であっても、王子の恋人を装うなんてできない。

シャナル王子にだって、失礼だ。


クノエ様たちは、今はまだわたくしが王子のおそばにいるだけでいいとおっしゃった。


わたくしはこの王子宮にいる間に、シャナル王子ときちんとお話をしよう。

わたくしには、他に好きな人がいると……。

きちんと、お伝えするのだ。


次は、策士策に溺れるシャナル王子です。

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