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そう、きっとシャナル王子は賢すぎるのだ。
ご実家のお父様やお母様がおなつかしいだろうに、ほとんど泣き言もおっしゃらず、魔力充が多くて大変だと嘆きながらも、お仕事は粛々とこなされる。
ご自分のお立場をかんがみて、そう「すべき」ようにふるまっていらっしゃるのだろう。
それは、王子というお立場を考えれば致し方のないこと。
そしてシャナル王子のお立場をよくするために必要なことだ。
けれども、シャナル王子はまだ8歳の子どもでもあるのだ。
普通ならば礼式の前で、実家の両親に甘えて暮らすことが許される年齢の子どもなのだ。
「クノエ様。僭越ですが、クノエ様たちが王子のお心に寄り添いたとお思いなら、そのことを王子にお伝えされてはいかがでしょうか。シャナル王子も、クノエ様たちのお心を知れば、考えが変わられるのでは?」
相手は王子宮の上官で、わたくしは無官の小翼だ。
王子宮の生活をよく知っているわけでもないのに、生意気なことを言っていると思う。
けれど、クノエ様たちが王子にここでおくつろぎいただきたいとお考えなら、シャナル王子のお味方であることをはっきりとお伝えすべきだと思う。
侍官も、わたくしと同じく王城勤めの官吏だ。
その配属は人事部が決める。
だから、彼らがシャナル王子についているのは、彼らの意思ではない。
一度特定の王子の侍官に選ばれれば、別の部署に異動になることはほとんどなく、侍官と王子は一蓮托生だ。
けれども、きっかけは人事部の決定であって、彼らが王子と共にあることを望んだのではない。
そのことを王子もご存じだ。
シャナル王子はお賢いからこそ、彼らに心を許せないのだろう。
実際、わたくしも、いまクノエ様のお言葉を聞くまで、シャナル王子の宮にいらっしゃる侍官の方々は優秀だけれども、親愛の情の薄い方々だと思っていた。
同じ王子の侍官でも、ユリウス王子の侍官たちは、親衛隊のように王子にはべり、王子の関心を買おうとしていると聞く。
けれどシャナル王子の宮では、侍官たちはどこか王子と距離をとり、王子に魔力充ばかりをおしつける……そんなふうに思っていた。
シャナル王子とクノエ様たちは、わたくしが知らない時間をたくさん共に過ごしされているのだから、わたくしの知らない親愛があって当然なのに、かってにそのように思い込んでいたことが恥ずかしい。
王子はクノエ様たちのお気持ちにお気づきかもしれないけれど、やはり言葉にして言ってもらえば、よりお心が通じると思うのだ。
「あなたはずいぶん、まっすぐな子どもなのね」
叱責を覚悟で伝えた言葉は、クノエ様に届いたのだろうか?
クノエ様は苦笑しながら、わたくしを子ども扱いする。
いらだちがわくけれども、表情にはださず、ただじっとクノエ様を見つめる。
するとクノエ様は、またお優しい表情に戻って、わたくしにおっしゃった。