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王子宮についたのは、定刻ぎりぎりの時間だった。

慌てて頭を下げると、ハウアー様に止められる。


「クベール公爵から連絡がきています。シュリー州の件、よかったですね」


「はい。ありがとうございます」


王子宮ではシュリー州の件について細かな話は、まだ抑えられているらしい。

端的におっしゃったハウアー様に、わたくしも端的に答えた。


「リーリア。申し訳ないですが、すぐに王子のところへ行っていただけますか?今朝も早朝から何度も魔力充をお願いしたので、王子の機嫌が悪いのです」


「承知いたしました」


シャナル王子は、王族の食堂にいるという。

わたくしは王子宮を出て、王家の方々の共有エリアに移動した。


昨日紹介いただいた保安官たちに目礼しながら、王族の食堂へ入る。

シャナル王子は大きな机のまんなかで、ひとりフォークを片手にぼんやりとしていた。


「シャナル王子。リーリア・ハッセン、ただいま参内いたしました」


「リア!」


王子はお食事中だというのに、フォークを置いて、立ち上がった。

こちらへ駆け寄ろうとされるシャナル王子をお止めして、わたくしは王子がお座りの椅子へと歩み寄る。


「お食事中に席をたつのは、お行儀が悪いですわ」


「……だって、リアにあえて嬉しかったんだもん」


王子はしょんぼりとうなだれつつ、わたくしの顔を見あげて、


「へへ。怒られちゃった。でも、リアになら、怒られるのも好きかも」


「王子。わたくしは王子にご注意を申し上げただけで、怒るなどいたしておりません。……参内が遅れましたこと、誠に申し訳ございません」


「ん?いーよー。っていうか、リア、遅刻じゃないよね?まだ定刻だし。それに、クベール公爵からも連絡来ていたよ。まぁ、僕より先にクベール公爵が、リアの朝の挨拶を受けたっていうのはズルいって気がするけどね」


シャナル王子はふんっと鼻息をはき、ちろりと舌を出した。


「ねぇ、リア。僕、朝からいっぱいがんばって、すっごい疲れているんだ。だから食欲もなくて……。リアが一緒に朝ごはん食べてくれたら、いっぱい食べられると思うんだけどな」


「申し訳ございませんが、王子。ここは王家の方々皆様がご利用される食堂です。いくらシャナル王子のお言葉があっても、一介の小翼であるわたくしが、同席するわけにはまいりません」


食欲がないなんて。

いわれてみれば、先ほども王子はフォークを握ったまま、ぼんやりとしていらした。

王子の前には、紅茶とオレンジのジュース、数種類のパンと揚げたベーコンとトマト、豆の煮たものにベリーなどの果物がほとんど手をつけられずにそのまま残っている。


「とても美味しそうですわ、王子。せめてパンとベーコンだけでも召し上がってはいかがですか?」


カリカリに揚げられたベーコンは、食欲をそそる香りをはなっている。

軽めのパンにベーコンをはさんで、紅茶で流し込むようすすめると、シャナル王子は「ふふっ」と笑う。


「そこで果物だけでもって言わないとこがリアだよねぇ」


「果物のほうがよろしければ、果物でもよいと思いますよ?」


わたくしとしては甘酸っぱい果物よりも、ベーコンのほうが好きだからついベーコンを進めたけれども、なにを好むかは人による。

以前わたくしが務めていたときは、シャナル王子も果物より肉を好まれていたけれども、最近は果物がお好きなのかしら。

短い期間とはいえ、側仕えとして働くのだから、好みも覚えなおさなくては。

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