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カーラからの情報は、ありがたかった。
エミリオのお父様たちには、ひそかに護衛もつけているらしい。
彼らに危険があれば守り、こちらに連絡するよう手配もすんでいるという。
エミリオのお父様たちに危険や迷惑がかからないのであれば、エミリオの寂しさを慰めるためにも、お泊りに来ていただくというのはいい考えかもしれない。
あちらのご両親だって、エミリオがどんな環境で生活しているのか気になるでしょうし。
そう思ってエミリオのお父様のご宿泊を提案したのだけれども、エミリオはきょとんと目をまるくすると、ケラケラと笑った。
「とーちゃんを、このお屋敷に、ですか?ムリムリ。ムリですって。とーちゃんは、こんな貴族のお屋敷に来るなんて、ぜったいに嫌がりますよ」
「……それは、貴族をうとんでいらっしゃるということかしら?」
エミリオは明るく言うけれども、エミリオのお父様が貴族嫌いなら、エミリオは辛くないのだろうか。
貴族嫌いの庶民は、一定数いると聞く。
わたしくたちは一所懸命に国のために働いているつもりだけれども、その力が及ばないこともたくさんある。
そのような失態を犯す貴族を憎む庶民も、いる。
……今回のザッハマインの出来事のようなことがあれば、国を守るべき立場にいるわたくしたちが責められるのは仕方ないことなのだ。
特に、おそらく出てしまっただろう被害者の方からすれば、王や、わたくしたち貴族、礼族たちがしっかりとしていれば、このような事態にならなかったと責めるのは当然だ。
懸命に働いていました、けれども力が及びませんでした、では許せないだろう。
また、わたくしたち貴族や礼族が魔力を多く使って便利な暮らしをしたり、おいしいお食事をいただいたりしていることに不満を抱く庶民もいるという。
快適な暮らしは国に提供する魔力を安定させるためにも必要なのだけれども、これも魔力を提供したことがない庶民からみれば、いいわけのようにとられるという。
もっともわたくし自身、自分たちの生活がすこし華美すぎるのではないかと思うこともある。
幼いころ、それを家庭教師に訊いたら、「これくらいの利益がなければ、貴族になるものがいなくなりますよ」と笑われたけれど。
わたくしたちは、恵まれた生活をしている。
それゆえ庶民たちはわたくしたちがその生活をするにふさわしい存在か、常に審判をくだしている。
なかには厳しい審査官もいて、わたくしたちがそれにふさわしくないと判断している、ということなのだろう。
エミリオのお父様がどちらの理由で、貴族を嫌っていらっしゃるのかはわからないけれど、どちらにしても貴族嫌いなら、エミリオがハッセン公爵家の養子になったのも反対されていたのではないだろうか。