56
朝食の後に紅茶をいただきながら、エミリオと今日の予定について話し合う。
といっても、わたくしは参内、エミリオは家庭教師たちとお勉強だ。
エミリオのカリキュラムについては、お父様たちと相談の上、家庭教師が管理しているらしい。
エミリオも特に問題なく受け入れているようなので、わたくしが口をはさむ必要はないだろう。
「リーリア姉様、今日は家に帰ってこられますよね?」
伝達すべきことがらをお互いに伝え合うと、エミリオがぽつりという。
じっとすがるように見つめながら言うエミリオに、わたくしは困ってしまって、ごまかすように笑った。
「……そうね。できるだけ、はやく戻るようにするわ」
できれば、必ず帰ってくると約束してあげたいけれど、王城がいまどのような状態なのかわからない。
シャナル王子のご様子をうかがわってからでなければ、帰ると約束することはできなかった。
エミリオは、そんなわたくしのためらいを見抜いたのだろう。
寂しい思いをさせるというのに、わたくしを気遣って、うっすらと笑う。
「シャナル王子とご一緒なら、べつにいいんですよ?……誘われたからって、他の人と抜けだしたりしないのなら」
「わたくしは、仕事中に抜け出したりしないわ」
疑われるように言われると、すこし腹が立つ。
けれど、わたくしたちの関係はまだ浅いのだし、エミリオも寂しくてすねているのかもしれない。
わたくしは、エミリオの心を慰める提案を持ち出した。
「エミリオ。わたくしが帰ってこられなくて、この家でひとりなのは寂しいでしょう?……考えたのですけれども、かわりにエミリオのご実家のお父様たちをこの家にお招きしたらどうかしら?」
そう。実は昨晩の夕食後、わたくしはエミリオのご両親について、家令のカーラに調査をお願いした。
彼らの現状によっては、保護するか、警護をつけるか、なんらかの対処が必要かもしれないと思ったのだ。
するとカーラはあっさりと、「だいじょうぶです」と微笑んだ。
カーラによると、エミリオのご両親はファラン商会の採集師として、長年働いているのだという。
採集師は基本的に日雇いで雇う慣例があるため、エミリオのご両親も日雇い労働者であはるが、特にお父様は腕がいい採集師のため、継続的にファラン商会で働いているそうだ。
仕事に困ることは、まずないだろうという。
またエミリオのお父様は、困っている仲間を家に招いてお食事をごちそうしたり、薬草を贈ったりと、他人に対しても家族と同様、気前よくふるまってきたので、それを恩義に思っている人も多いらしい。
現状のところという注意点はつくけれども、エミリオが貴族の養子となったことも、あたたかく受け入れられているそうだ。
エミリオのお父様をハッセン公爵家にお招きしても、そうご迷惑になることもないでしょう、とお父様から調査資料を託されていたカーラが保証してくれた。
お父様は、わたくしたちにエミリオの情報をふせることで、エミリオとの交渉を活発にさせたかったみたい。
わたくしやお兄様が、さまざまなことをエミリオに尋ねるよう、ご自身ではあまりエミリオの情報を教えてくださらなかったのだ。
けれど、このような非常事態ですから、とカーラはわたくしに情報を流してくれたのだ。