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目を覚ましたら、朝だった。

あんなに重苦しい眠りについたはずだったのに、眠れば心も気分も楽になっていた。


部屋のベッドで眠ったと思うのに、目覚めたのはお兄様のクローゼットの中だった。

クローゼットの扉は開け放たれていて、うっすらと陽の光が見える。


たぶん無意識に、お兄様の部屋に入り、お兄様のクローゼットで眠ってしまったみたいだった。


「どうりで、気分が楽になっているはずだわ」


クローゼットの中には、お兄様が鍛錬の時に使われるシャツやパンツ、部屋でおくつろぎになる時に着られるガウンなどが入っている。

きちんと洗濯はされているけれども、参内の時に着る服のように従僕たちが丁寧に管理している服とは違い、すこしだけお兄様の香が残っている気がした。

だからクローゼットの中は、お兄様の香がうっすらと漂っていて、その中で眠ると、すこしだけお兄様を感じられる。


眠る前のひどい気分が、ほんの少し救われている。

今日もいちにち頑張ろうと、強がりまじりだけれど、素直にそう思える。


お兄様のシャツにほおずりして、わたくしはそっとクローゼットから出た。

こんなところをルルーに見つかりでもしたら、また叱られてしまう。


幸い、まだ朝もはやい時刻のようだ。

わたくしはそっとお兄様の部屋を抜け出して、自分の部屋に戻ろうと廊下に出た。

そこに、なぜかエミリオが立っていた。


「あれ?リーリア姉様?……リーリア姉様のお部屋って、ここでしたっけ?」


「え?ええ。そうではないけれど。……エミリオ、わたくしにご用なのかしら?」


エミリオはこてんと首をかしげたが、わたくしの行いを疑っている様子はない。

さらりと尋ねると、エミリオは曇りのない笑顔で「はい」と笑う。


「リーリア姉様、昨日の朝、おひとりで走り込みや素振りをなさっていたでしょう?今日もされるのでしたら、俺も一緒に走ろうかなぁと思って、様子をうかがいに来たんですよ」


「……ありがとう。待ってて、すぐに着替えてくるわ」


「はい!」


エミリオが、わたくしを気遣ってくれているのを感じた。

わたくしは、玄関ホールへと走っていくエミリオを見送り、部屋へ戻る。


着替えて、走って、素振りをして、朝食。

身支度を整えて、王子宮に参内。


予定は、山積み。

一日は、まだ始まったばかりだ。


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