ガイ-6
男祭です。
夜遅くなったが、リュカ州の州庁までたどり着いた。
王都からリュカまでは比較的近いとはいえ、この速さでたどり着けたのは、私が振り分けられたのが、最も先にザッハマインへ入るために選ばれた精鋭グループだったからだ。
精鋭といっても、一人を除いては、若さと体力、馬の脚の速さを基準に選ばれたグループではあるが。
早朝からろくに休みもとらず馬で駆けてきたが、さすがに体力で選ばれたグループである。
どの顔も疲労は見えても、この場に倒れこみそうな者はいない。
……いや、ひとりだけ顔から血の気が失せている男がいた。
私たちのグループで唯一、体力ではなく得意とする魔術の効果を期待して選ばれたバルだ。
バルは23歳だが、グループで唯一の小翼の私と同じぐらい体が薄く、細い。
もともとこのグループの中では体力が劣るうえ、道中ずっと魔術を使っていたのだ。疲れもするだろう。
「バル。食事はとれそうか?」
グループのリーダーのナハトが、ぐったりと机につっぷして動かないバルに声をかけた。
ナハトは大柄な男で、見合うだけの体力もある。
机につくや否や自分の夕食はたいらげて、サブリーダーのリヒトと明日の計画を詰めていたのだが、数刻たっても机につっぷしているバルのことが心配になったのだろう。
バルは、ナハトの心配に気づいたらしい。
机に顔をつっぷしたまま、のたのたと言う。
「食うさ。食わなかったらもたねぇだろ……」
ふだんは堅苦しい話し方をするバルの口調が、くだけたものに変わっていることに驚く。
上官のナハトの前だと止めようと思ったが、ナハトに目で制止された。
バル本人は自分の口調が普段と違うことすら気づいていないようで、勢いをつけてがばっと机から体を起こし、目の前のスープに手をつけた。
「あー……、こりゃうまいわ。ちょっと冷めてきているのも、食いやすくていいや」
「そうですね。疲れた体にしみこむようです」
うなずいて、私も食事に手をつけた。
玉ねぎがたっぷり入ったスープは、チーズをのせて焼いたパンも入っていて、腹が膨れる。
メインはボリュームたっぷりのカツレツ。
一昨日の夕食と同じメニューだが、カツレツは好きなので嬉しい。
デザートに、ナッツのタルトまで供された。
「うまいが…、ずいぶん良い食事を用意してくれたものだな。これはリュカ州の州費なのだろう?私たちは王都軍の所属なのに、申し訳ないな」
リヒトが、タルトを見つめながら言う。
ナハトもうなずいて、空っぽの自分の皿をありがたそうに見た。
「まぁ、俺たちは人数も少ないからだろうが……。食えるときに食っておけよ。ちょっとでも足止めを食うようなことがあったら、食事なんてとれない強行軍なんだからよ」
「そうだ、そうだー!食わねぇと体力もたねぇぞ!」
バルはフォークをかかげて、叫ぶ。
食べている間に体力が戻ったのか、すこし顔に赤みがもどってきた。
ガツガツと一気にカツレツを食べると、タルトもぺろりと平らげる。
「見事な食いっぷりだな」
ナハトとリヒトは、くくっと笑う。
ふだんの任務でもよくチームを組むせいか、外見はまったく異なるふたりなのに、笑い方がそっくりでおどろく。
「魔術を使うと、腹が減るんですよ」
バルは普段の口調に戻って、優雅に笑った。