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あとは、そうね。
家庭教師の先生方に、我が家にお泊りいただくというのもよい考えかもしれないわ。
エミリオはずいぶん先生方にかわいがられているみたいだし、先生は武術の先生も、お勉強の先生も、おひとりで暮らされていたはず。
それぞれ一晩くらいなら、お泊りいただけるかもしれない……。
わたくしは良い考えを思いついたので、とても嬉しくなった。
「エミリオ。すこし寂しいかもしれませんが、安心してくださいませ。良いように取り計らいます。お姉様はあなたのこと、大切におもっていますからね」
自分のことを「お姉様」というのは、慣れなくてすこし気恥ずかしく、誇らしい。
にっこりと笑ってエミリオに言うと、なにやら難しい表情をしていたエミリオは「それより」と重々しく言う。
「王城にお泊りになる際は、ぜったいにシャナル王子のお傍にいてくださいね。他の王子とか、一緒に働いている官吏とかと一緒に寝たりはしないでください」
「まぁ。あたりまえじゃないの、エミリオ」
わたくしはシャナル王子のお傍で過ごすために王城に泊まりに行くのだ。
遊びに行くのではない。
遊びに行くのであれば、エミリオを置いて泊まりになんていかないのに……。
まだまだわたくしは、エミリオの姉として信頼を得ていないのだろう。
寂しいけれど、当然のことだ。
わたくしたちは姉弟になって、まだ3日。
そのうえ初日は、エミリオと出会った瞬間わたくしが気を失ってしまったので、実質2日である。
家族として信頼を築いていくのは、まだこれからのことだ。
それにはまず、わたくしという人間を信頼してもらうことから始めるのがいいかもしれない。
「これでもわたくしは、小翼ですのよ。恐れ多くもシャナル王子には、ご信頼もいただいています。この非常事態にお心を弱らせていらっしゃる王子のお傍から離れて、お友達と過ごしたりなんていたしませんわ」
胸をはって、姉としての威厳を込めていう。
……まぁ接点のないコンラッド王子はともかく、シスレイや他の官吏と雑魚寝することはあるかもしれないけれども。
それも仕事のうちだもの、嘘をついていることにはならないだろう。
仕事をきちんと遂行するということは、人間として信用を得るためのひとつの条件だと思う。
勤務中に友人と遊び、あまつさえそのために業務を怠るなんて、わたくしは絶対にしない。
それさえエミリオにわかってもらえばいいのだから。
エミリオは、わたくしを見て目を丸くする。
わかってくれたのだと思ったけれど、エミリオはなぜか、はぁっとため息をついた。
「本当に、シャナル王子のお傍から離れないでくださいよ。じゃないと俺がハッセン公爵たちにぼこぼこにされます」
「へんなことをいうのね、エミリオ」
お父様たちは、わたくしの仕事に口をはさんだりはされない。
そっと助言をくださることはあるけれども。
ましてやわたくしの仕事の関係で、エミリオに暴力をふるうなどありえない。
……わたくしたちはほんとうに、まだエミリオに家族として信頼されていないんだわ。
「お父様たちもきっと、いまごろお仕事をがんばっていらっしゃるわ。わたくしたちも、おふたりに恥じぬよう、すべきことをして、おふたりの帰りを待ちましょう」
そう、お父様たちが帰っていらしたら、みんなで少しずつエミリオとの信頼を築いていこう。
焦ることなど、ないのだ。
時間はまだまだあるはずなのだから……。
次は、ガイです。