エミリオ-5
もしも、仮に、だ。
やんごとなき王子様が、リーリア姉様に無理に迫っているのだとしたら。
だったら、かなりヤバくね?
王子宮で働くってことは、まわりはみんな王子の味方なんだろ?
まさか高貴なお方に限ってそんなことするはずねーと思うけど、外国の物語には、王様とか王子様とかが、側仕えの娘を無理矢理手籠めにするってのもあったような……。
リーリア姉様のこの深刻な感じからすると、手籠めの危険性大なのか?
文化部で働くかわりに王子宮で働くってだけの話なら、こんな深刻な顔はするはずないし。
まさか?いや、でも……?
……ちょっ、ほんとやめてくれよ!
数日前まで庶民だった俺にとって、王子なんて雲の上の人なんだよ!
生々しい話とか聞きたくねーよ!っていうか、ねーよな?な?
そうだ、俺の勘違い……。
「それでね、時々は王子宮に泊まってほしいって王子にお願いされていて……」
「だだだだだだめです!!」
泊まり!?
やっぱり手籠めねらいかよっ!
冗談じゃねぇ、俺はガイ様に、リーリア姉様を頼むって言われているんだぞ。
兄妹愛にしろ、恋愛感情にしろ、ガイ様はリーリア姉様を溺愛している。
ハッセン公爵もな!
ふたりが留守の間に、リーリア姉様が王子に手籠めにされたら、俺はきっと殺される!
っていうか、手籠めはまずいだろ。王子なにやってんだよ。
「ぜったい、ぜったい、泊まりはダメです。お断りしてください。それって通常業務じゃないですよね?断れるはずです!!」
「確かに仕事とは言えないかもしれないわ。でも……王子も、お寂しいのよ」
「寂しかろうが、なんだろうが、ダメなものはダメです!お父様やガイ様だって、ぜったいに反対されるに決まっています!」
「それはそうかもしれないけれども……」
リーリア姉様が、うなだれる。
っていうか、そんな話をまともに受けるなんて、どうかしているとしか思えない。
言うほうも言うほうだけど、受けるほうも受けるほうだよ!
リーリア姉様も王子を好きだっていうなら、別にいいけどさ。
そんな深刻な顔でする話なら、やめたほうがいい。
別に王子だって、脅しているとかじゃないんだろうし……。
って、あれか?これも貴族ルールとかなのか?
「まさか、なにかお断りできない理由でもあるんですか?」
だとしたら、貴族怖すぎる。
王子の手籠めを断れないルールとかあるなら、ホラーだよ。
まさかとは思うけど、貴族ルールってよくわからねぇから、もしやと思って、おそるおそる尋ねる。
リーリア姉様は、俺の顔を見て、物憂げにため息をついた。
「そうじゃないわ。でも、わたくし、王子にはできるだけ優しくしてさしあげたいのよ。王子もあなたと同じで、王のご養子なのだけれども、魔力量が多いからといって礼式の前に養子に入られたのよ。今はまだ8歳と幼くていらっしゃるし、お母様が恋しいんでしょう。わたくしの髪の色がお母様に似ているからと、面影を重ねてあまえてくださるの」
「は、8歳?リーリア姉様がおつかえする王子って、8歳なんですか?」
「ええ、そうよ。シャナル王子とおっしゃるの。わたくし、去年小翼見習いだった時、王子のお側仕えの補助をさせていただいていましたのよ」
そういや、王子って3人いたんだっけ。
気づいたら、体から力が抜けた。
リーリア姉様がお仕えする王子と、噂の王子って別人かよ。
超絶びびったわ。
勘違いでよかった。
リーリア姉様がお仕えする王子は、8歳ね。
8歳って。そりゃ、お泊りのおねだりもするわ。ほんの子どもだもんな。
王城もいま混乱してるんだろうし、8歳の子どもが親の側から離されていたら、心細いだろう。
夜とか、特になぁ。一人じゃ寂しいんだろうな。
そりゃ、懐いている官吏に側にいてほしくもなるよな……。
次は、リーリアです。