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前世を思い出すという非日常的な出来事があっても、たっぷり眠った朝の目覚めはすっきりとしている。

いつもよりはやい時間に爽やかな気分で目覚めたわたくしは、部屋の隅に人影を見つけて、飛び起きた。


ベッドからは遠い窓際のソファに腰かけたまま、お兄様が眠っていらした。

なぜ、なんて考える必要もない。

お優しいお兄様は、倒れてしまった不肖の妹を心配して、こうして部屋にとどまってくださったのだろう。


そのお心遣いが嬉しく、恥ずかしい。


そっと足音を殺して、お兄様が座るソファの前に立つ。

カーテンの隙間からもれた光が、お兄様の長いまつ毛に落ち、きらきらとひかる。

黒いさらさらとした髪が、触ってごらんとばかりに誘惑する。


眠るお兄様に無断で触れるなんて、許されないこと。

ふらふらと伸びそうになる手を、意思の力でとどめつつ、わたくしはぼんやりとお兄様に見惚れた。


「あぁ、ほんとうに。なんてお兄様は素敵なのかしら……」


うっとりとしたつぶやきが口からこぼれた瞬間、眠っていらしたお兄様が身じろぎをして、目を覚まされた。


「リア?……もう起きて、だいじょうぶなのかい?」


「ええ、もうすっかり元気ですわ」


目覚めた時も元気だったけれど、今はそれ以上に元気です。

だって、お兄様の寝顔をじっくりと見つめられたから…なんて、口には出せませんけど。


「そうか。よかった」


お兄様はまぶしそうに眼をひそめ、そっとわたくしの頬を指でなでる。

するとわたくしのからだには、ほんの少しあまい衝撃がかけめぐって、わたくしはうっとりとお兄様の指の感触を受け止めた。


お兄様はたちあがると、カーテンを開ける。


「あぁ、天気もいいね。今日はエミリオに屋敷を案内する予定だから、晴れてよかったよ」


エミリオの名前を聞くと、心臓がどきりとはねる。

昨夜思い出した前世の記憶が頭をかけめぐり、お兄様に見放される未来を思い出してしまう。


あれは、ただのゲーム。

この世界とは、別のもの。

そう自分に言い聞かせるけれど、お兄様に向けた笑顔はぎこちなく強張ってしまった。


「リア?」


お兄様が、そんなわたくしの態度を不思議そうに見る。

わたくしはお兄様の顔を見つめ返し、「まぁ!」と声をあげた。


「お兄様!お顔に傷が……!」


「へ?あぁ、このくらい大したことないよ」


カーテンをひいていた薄暗い部屋では見えなかったけれど、お兄様の頬に細い線のような赤い筋ができていた。

大したことないとおっしゃるお兄様のお言葉は正しくて、かすりきずのようだけど、お兄様のお顔に傷でも残ったら大変。

第一このままでは、お兄様がお顔を洗われた時にピリピリ痛むだろう。


「お兄様、座ってくださいな。わたくしに治させてくださいませ」


お兄様の手をとって、ソファに座っていただく。

お兄様はすこし困り顔で、そっと目を閉じた。


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