エミリオ-3
デザートの果物を食べ終えて、メイドが皿を片付けると、リーリア姉様はひとばらいを命じた。
「エミリオ。ファラン商会の方は、黙っていてくださるっておっしゃったのね?」
「はい。リーリア姉様のご温情を感謝する、必ずお約束は守りましょう、と。俺のとーちゃんたちにも、ファラン商会からもよく言っておいてくれるって」
さっきも、そう言ったんだけどな。
リーリア姉様は、俺の話を聞いてなかったというわけではなくて、さっきもちゃんと話しにそった質問とかしてたし。
どうかしたのか?
やっぱりハッセン公爵とかのことが心配で、上の空だったのかな?
具合が悪いってわけじゃ、ねぇよな?
心配になってじっと観察しても、よくわからねぇ。
リーリア姉様は眉間にしわをよせて、俺の言葉を味わうようにまたたきをした。
「……そう。お兄様のお願いの件は、なんと?」
「そちらも検討いたします、と。ただ今はまだ確約はできないそうです」
「大きな事案だもの。多少の時間はかかっても仕方ないですわね」
ふぅっとリーリア姉様はため息をついた。
安心したような、けどまだだいじょうぶって思いきれないような微妙な顔。
かーちゃんが家賃の支払い前、今週の家賃はちゃんと用意できたわ、でも来週はだいじょうぶかしらって言いつつ金を数えている時みたいな顔だ。
「エミリオ。お話があるの」
「なんでしょうか、リーリア姉様」
めちゃくちゃ深刻な顔で切り出されて、ちょっとびびる。
うぇ、なんか難しい話かな。
もう昨日のガイ様の話みたいな大事件は勘弁してほしい。
……いやリーリア姉様のが大変なんけどな。
でもちょっとトラウマ気味。
だってよー、俺はつい最近まで庶民でさ。
しかもとーちゃんは日雇いで好きなことして働いてたから、裕福ってわけじゃないけど、義務とか責任とかはなかった。
金だって、俺の魔力で稼いだぶんはほとんど自分で使えたし、気楽な生活してたんだ。
寝て、起きて、食って、ちょっかいかけてくるやつらとケンカして。
マリオに勉強教えてもらったり、働いたり。
いいことがあれば嬉しくて、いやなことがあればケンカして。
そういうシンプルな生活だった。
なのにハッセン公爵家に養子になってすぐ、養父になったハッセン公爵も義兄のガイ様も、国境障壁を破壊するようなわけわからねーやつを倒すためにザッハマインに行ってしまった。
はっきりいって、今までの俺なら、ザッハマインで起こったことなんて、関係ないって思ってた。
そりゃ今回はたまたまねーちゃんたちが旅行に行っていたから、公爵家の養子に入らなくても、大騒ぎしたと思うけどさ。
それは、ただ自分の身内が無事か心配ってだけで、ねーちゃんたちが無事なら、基本、自分とは関係ないことって思ってたはずだ。
ザッハマインの人はかわいそうだなって思っても、じゃあ自分がどうするかとか、考えたこともなかった。
けど、ここじゃそういうわけにはいかない。