シャナル王子-3
大人たちはすぐ「あなたは王子なのですから、グラッハの国のために尽くすべきです」なんて言うけどさ、僕から言わせてもらえれば、そんなの大人が勝手に決めた決まりでしょって感じ。
グラッハ国につくすべき?
ふーん、じゃぁ国は僕になにをしてくれるっていうのかな?
王子として、充実した衣食住を与えられているでしょってこと?
けどね、そんなのぜんぜん大したことじゃないよね?
だって、はっきりいって、僕はすごいよ?
この魔力量、びっくりするほどあるよ?
まだ未成年というかヒトケタの年齢の子どもなのに、大国グラッハの王様と同レベルの魔力があるんだよ?
こんな僕がちょっと贅沢な衣食住を与えられたからって、一生を国にささげろって言われてもさぁ。
別に衣食住なんて、よゆうで自分でゲットできるしって感じ。
その気になれば、この国を乗っ取ることだって……不可能って気はしないんだよね。面倒だからしないけど。
僕がいま従順に「この国のために」働いているのって、はっきりいって、リアのためだけだからね。
ある意味救国の聖女なんじゃないかなー、リアは。
僕が王城に来た時、側仕えの補佐としてリアが現れなければ、もうとっくに王城から逃げてたと思う。
王城脱出計画、けっこうがんばってつくってたんだもん。
最初、リアに目をつけたのは、噂話が発端だった。
ハッセン公爵家の一人娘で、父親と義理の兄に溺愛されたお姫様。
真面目で純粋で裏表がない性格で、ハッセン公爵家の娘として、国に尽くすことばっかり考えている……。
はっきりいって、だいっきらいだと思った。そんなやつ。
いくら僕がすごくても、王城みたいな警備が厳しくて広大な場所から、連れてこられてすぐに逃げ出すのは難しい。
まず脱出の経路や、逃げる先を調べなくちゃね。
だから、その調べがつくまでの短い間、恵まれたお姫様をいびりたおして、泣き顔を拝んでやろうって思ったんだ。
いい暇つぶしになるぞって。
親に愛されてて、その愛情を当たり前のものとして受け取って育ったいい子って、僕、だいっきらいだったから。
悪意なんて、向けて当然だと思っていた。
僕の実の両親であるシャルボン伯爵夫妻は、子煩悩ないい親なんだって。
その噂を聞いた時、僕がどんなにびっくりしたと思う?
だってお父様もお母様も、僕にはすーっごく他人行儀で冷たかったからね。
いじめられてたとかじゃないよ?
ただ僕の魔力量ってすごく大きいから、ふたりには生まれてすぐ、僕が特別な子だってわかったんだって。
礼式を迎えるころには、この子は自分たちの手放さなくちゃいけないだろうって、わかったんだって。
で、子煩悩なおふたりは、僕の育成を乳母の手に一任することにした。
早々に手放さなくちゃいけない子に、情けをかけても辛いだけだからって。
なにそれって感じだよね?
可愛がって情が移ったら手放す時悲しいから、自分の子どもだけどかわいがるをやめた?
でも、自分の子どもが他人に懐くのをみるのもつらいから、乳母たちには僕をかわいがるのは許さなかった?
それが自分たちの愛情だって?
王城からの迎えが来て、そういうことを涙ながらに語る「実の親」に、僕はすっごく腹が立った。
お父様とお母様の隣には僕の兄と姉がいて、その子たちは僕より大きいのに、お父様とお母様に手をつないでもらっていて、初めて会う「弟」とのお別れを、ちょっと不思議そうに眺めていた。
……そっちのふたりは、成人まで自分たちの手元においてかわいがって育てられる「子ども」ってわけだった。