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とはいえ、「悪役令嬢」は一概に悪者とは限らない。
特に「乙女ゲームに転生した場合、どのような人生を送るか」という研究において、転生した悪役令嬢は、前世での知識を用いて、現世での自分や周囲の人々に大きな恵みを与え、彼女自身の人生も豊かなものにすることが多かった。
わたくしもせっかく前世の記憶をとりもどしたのだから、彼女たちのように努力して、自分の人生を育んでいきたい。
それには、並々ならぬ努力が必要だと思うけれど……。
わたくしは、お兄様のお姿を思い浮かべた。
現世のお兄様はお優しく、いたらないわたくしにも良くしてくださる。
でもゲームでのお兄様は、わたくしのことを詰まらない女性だと思っていらっしゃった。
学院での同級生となる第二王子にわたくしのことを聞かれた時、「大人しい地味な少女ですよ。王子がお気になさる相手ではございません」と、軽く笑っておっしゃっていたもの。
ゲームと現生は異なるところも、ある。
社会構造や貴族などの身分制度については、まったく違うと言ってもいいほど異なる。
けれどゲームの「スチル」に登場したお兄様やエミリオの顔や、王子たちの顔、名前、カルーセン学院のこと。
共通する点も多い。
だったら、お兄様のわたくしへの評価も、共通している可能性はある。
いまはあんなに優しく笑いかけてくださるお兄様のまなざしを、あと1年ほどで失ってしまうかもしれない……。
それは、今までのわたくしの存在を揺るがすほど、大きな恐怖だった。
その恐怖を退けるためなら、わたくしはどんな努力もできると思う。
……それに。
ゲームに登場するヒロインは、確かに可愛らしく、努力家の素敵な女性だった。
けれど、どんな素敵な女性が相手でも、お兄様がわたくし以外の女性を選び、寄り添って生きる未来を目の当たりにすると、それがゲームのシミュレーションなのだとわかっていても、とても嫌だった。
お兄様の隣に立つのはわたくしであってほしいと、願わずにはいられなかった。
だから、わたくしは努力しようと思う。
周囲の人も、自分も幸せにできるような、素敵な「悪役令嬢」になるために。
がんばろうと決めた。