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シスレイの無礼に、わたくしは青ざめた。
シャナル王子がわたくしたちに親し気に接してくださっているとはいえ、相手は無位の王子だ。
わたくしたちと同じく小翼として働いているコンラッド王子になら、同僚としての訴えなのだと誤魔化すこともできただろう。
けれど、まだ働くこともない年齢のシャナル王子はわたくしたちにとって、ただ敬いお守りするべき対象だ。
王城勤務だというのに、上司の決定の不満を訴えるなんて、許されることではない。
わたくしはシスレイの横に跪き、シャナル王子に頭をさげた。
「申し訳ございません、王子!シスレイにはわたくしから言い聞かせます。どうぞ、今の言葉は聞かなかったことにしていただけませんか?」
……こんなふうに願い出るわたくしも、またシャナル王子にあまえている。
けれど王子はにっこりと天使のように微笑まれ、わたくしの手をひいて、わたくしを立ち上がらせた。
「そんな謝るようなことじゃないよ、リア。えっとそこの彼女……シスレイ、だっけ。彼女の言い分もちゃんと聞いてあげたいな。彼女も文化部の小翼だよね。リアを探して文化部に行ったとき、見かけたことあるもん」
「はい。おっしゃるとおり、文化部小翼シスレイ・ラットンと申します。……名乗りもせず、申し訳ございません」
「ラットン。ラットン子爵のご令嬢が文化部の小翼だって聞いたことあるな。ふぅん。君がそうかぁ」
家名を聞いたとたん、思い当たることがあったようにうなずくシャナル王子を、シスレイは緊張した面持ちで仰ぎみる。
王子は、天使の微笑みをうかべたまま、シスレイの顔を覗き込み、告げる。
「ねぇ、シスレイ。文化部の小翼が参内を差し止められたって話は、僕も小耳にはさんでいたんだ。ひどいよね。小翼見習いならともかく、小翼まで差し止めるなんて。君たちは王城の有力な戦力なのに」
王子の言葉に、シスレイが我が意を得たりとばかりに何度もうなずいた。
王子はますます笑みを深めて、
「僕の宮では、まだ幼い小翼見習いは返されたけど、小翼は残っているんだよ。掃除とかの毎日欠かせない雑務も多いでしょ?だから人手は減らせないんだよね。けど、何人かは家の仕事のために参内できないって小翼もいて、困っているんだ」
なぜだろう。
王子はいつも通り微笑み、失礼をしたシスレイに同情をよせ、優しく語り掛けてくださっているというのに、なぜかわたくしはうすら寒い気配を感じた。
少年らしい高く澄んだ声で歌うように朗々とシスレイに語り掛けるシャナル王子の言葉は、シスレイを誘惑しているようだった。
わたくしが息をのんでふたりを見ていると、王子は言葉を切り、優しい優しい声で、シスレイに問いかける。
「……ところで、ねぇシスレイ。僕に、君の話の続きを聞かせてくれるかな?」
シスレイは誘い込まれるように、もう一度深々と頭をさげて、シャナル王子に願い出た。
「お願いします!事態が収まるまで、わたくしを王子宮の小翼として働かせてください……!」