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「あー…一日ぶりのリアだぁ。ねぇ、僕ね、今日は早起きして、いーっぱい魔力充したんだよ。えらいでしょ?」


「あ、はい。ご立派です、シャナル王子」


ほめてほめてとばかりに抱き付いてくるシャナル王子の屈託のない明るさに、王子はグラッハを襲っている危機について把握されていないのではと疑念を抱いた。

けれどこの状況を把握されていなかったとしても、シャナル王子は、役に立たないから家で待機しておくよう言われたわたくしたちより、ずっとこの国のお役に立っていらっしゃる。

緊急時の今はどこの部でも、いつも以上に万が一の事態に備えて、魔力を貯めておきたいのだろうから。


結局どんなに勉強しても武術に励んでも、魔力量が多いことにはかなわないのだろうか。

ぎゅうぎゅうと抱き付いてくる王子の頭をなでながら、わたくしは苦い思いを噛みしめる。


悔しい。

魔力量は、努力では補えない。

がんばって魔術の練習をすれば、多少は上手に魔力を扱えるようになるけれど、なによりも持って生まれた魔力量の多寡がその明暗を決める。

わたくしには、与えられなかった才能だ。


暗い気持ちが心からわきあがってくる。

けれど、努力で結果が大きく左右される勉強や武術も他人に誇れるほどの能力がないことを思い出した。

物心ついたころから最良の教師の指導を受けて学び、生きた教材であるお父様のお傍で育っているのに、わたくしは「そこそこ」以上の能力が身についていない。


先ほどエミリオに出した答えが正しいのかだって、自信がない。

いつもなら判断の難しい事案は、お父様かお兄様に頼ることが許されてきたから、おふたりの判断に頼ってあまえてきた。

そのツケが、いま、まわってきていた。


今のわたくしがいたらないのは、今までのわたくしがいたらなかったからだ。

自分の努力を最大限にしてもいないのに、他人に嫉妬するなんて愚かだ。


「シャナル王子。王子のご尽力、グラッハ国民のひとりとして、心から感謝いたします」


王子を抱きしめたままの体勢で言うのは間が抜けているけれども、精一杯の誠意をこめて、わたくしは言う。

すると王子は、わたくしの胸によせていた顔をぱっとあげ、目を丸くしてわたくしを見上げてきた。


「え。え。どうしたのリア。そんな改まって言われると、僕、照れちゃうよ……」


「わたくしたちのために、幼い王子ががんばってくださっているのです。感謝の言葉くらい、伝えさせてください」


王子の魔力量は非常に多いため、魔力充自体は王子にとっては大変ではないらしい。

けれども、王子は8歳の子どもでもある。

まだ王城の勤務定刻時間よりはやい今の時刻に、すでに大量の魔力を提供させられているなんて、この小さなお体にこたえていないはずはない。

なのに王子はわたくしのような臣下の者に礼を言われただけで、恥ずかしがられる。

幼いのに、ほんとうにできた方だ。


「え。うん。ありがとう。……って、そんな真顔で、かわいいこと言わないでくれる?いつものボケはどこに置いてきたの?あとそのじっと見つめるのやめて……!いま僕、いろいろダメになりそうだから……っ」


「わたくしはいつも真面目なつもりですけれども……?」


いつものボケなどと言われても、なんのことだかわからない。

見つめるなと言われるのも…、話をしているのだし、王子は私に抱き付いている。

この状態で、王子の顔以外のところを見るほうが問題なのではないかしら。


「そういうとこがボケなんだよ……」


いささか失礼なことをおっしゃりながら、王子はなぜか顔を赤くする。

その表情がいつもより幼い気がして、わたくしは首を傾げた。


「シャナル王子!お話がございます!」


とつぜん、シスレイがシャナル王子に跪いた。


「許す」


儀典の時などはともかく、王城で働く者が、勤務中に王子に膝をつく必要などない。

とつぜん跪かれた王子は驚きつつも、わたくしに抱き付いていた腕をはなし、シスレイへ向きなおった。

するとシスレイは顔をあげ、王子に願い出た。


「わたくしたち文化部所属の小翼は、緊急時だからとしばらく参内を差し止められました。けれどわたくしは、この危機の際に家でただ待っているだけなんて、嫌です!小翼とはいえ、わたくしだって王城の人間。官吏たちと同じように、お役に立ちたいって思っているんです」


「シスレイ…!それは王子に申し上げるようなことじゃないわ!!」


わたくしは慌てて、シスレイを止めた。

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