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王城はさぞかし混乱しているだろうと身構えて参内したけれど、文化部は意外なほど静かだった。
というよりも、人が少ない。
小翼詰所はさらに閑散としていて、いるのはシスレイだけだった。
「シスレイ?みんなはまだ参内していないの?」
定刻よりもずいぶんはやくに参内したので、まだ他の人は参内していないのかと思った。
けれどシスレイは泣きはらした目でわたくしを見つめると、ゆるゆると横に首をふった。
「わたくしたちには、帰宅命令がでているのよ。緊急事態ですもの。小翼や小翼見習いにかまっている暇などないんですって」
力ない態度とは裏腹に、シスレイの声音には怒りが混じっていた。
「なんですって……?」
それは、シスレイの言葉を聞いたわたくしの胸にも火をつける。
「かまっている暇って……。わたくしたち小翼だって、王城で働く一員ですわ!なにかできることがあるはずです!!」
「わたくしだって、そうリンダ様に申し上げたわよ。でもダメなんですって。そもそも文化部は緊急時に役立つよう業務はしていないんですもの、官吏の方々も余分な魔力を使わないように最低限の人員が文化部で待機しているだけで、他の方は軍部や厚生部などにお手伝いにいかれているそうよ。小翼で残れるのは、格別に魔力の強いかただけですって」
そう言ってシスレイが挙げた名前の中に、もちろんわたくしもシスレイも入っていなかった。
わたくしも魔力量が多いわけではないけれど、シスレイはわたくしよりもずっと魔力量が少ない。
自分たちでは立派に王城で働いているつもりだったけれど、官吏の方たちからみれば、わたくしたちは手間のかかる生徒のようなものだったんだろう。
ただその現実を、この非常事態が露わにしただけなのだ。
「……リンダ様は、どちらにいらっしゃるの?」
「無駄よ。わたくしもずいぶん食い下がったけれど、時間をとらせるなって言われただけだわ」
「それでも……!」
なにかしたいのだと言いかけて、わたくしは言葉を吞んだ。
リンダ様のおっしゃるとおりだ。
自分がお役に立ちたいからといって、上司の帰宅命令にも従えず、上司に無駄な時間をとらせるなんて、子どものわがままだと言われても仕方がない。
帰れと言われたら、帰らなくてはいけないのだ。
「……帰りましょう、シスレイ。それがわたくしたちの上司の決定なのよ。不服でも、従わなくては。それが今のわたくしたちにできる最善のことなのだわ」
「今の」とシスレイに告げたのは、わたくしの矜持だった。
いつかきっと、緊急時に残ってほしいと言われるような立派な官吏になってみせる。
決意を込めて言えば、シスレイもこくんとうなずいた。
わたくしはシスレイの手をひき、王城を後にしようとした。
けれどその時、弾んだ声がわたくしの名を呼ぶ。
「あ。やっぱり、リアだ!ぜったいリアの声がしたと思ったんだよね!!」
場違いにも、顔を輝かせて走り寄ってきたのは、シャナル王子だった。