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エミリオには、わたくしの言葉が根拠のない慰めだと思えただろう。

けれどエミリオはわたくしの慰めの言葉を受け入れ、よろよろと立ち上がった。


「すみません、ガイ様。もう……だいじょうぶです。お話の続きをお願いします。その話をガイ様がなさってて、ハッセン公爵がまだご帰宅されてないってことは軍部が動いてるってことですよね?」


「ああ。我々とて、シュリー州を見捨てる気など、もちろんない。近郊の州や街に詰めている軍人はシュリー州へ向かっている。われわれ中央の人間も、明日の早朝に出動する予定だ」


「お父様も出動されるの……?」


わたくしは、武のハッセン公爵の娘だ。

拙いとはいえ、武術もおさめている。

父も、兄も、軍部の人間だ。

戦いとなれば、真っ先に出動するのが当然だ。

今までだって、グラッハ本国が関係する戦こそ長年なかったとはいえ、火龍や土鬼を退治しに行かれたり、外国の要請をうけて助勢にむかったりされたことはあった。


けれど、それでも。家族を戦場へ送り出すのに慣れることはないだろう。


わたくしはドレスを握りしめながら、お兄様に伺った。

お兄様はわたくしを、あの綺麗な漆黒の目で見つめながら、おっしゃった。


「ああ。お父様は、もう速駆でザッハマインへ向かわれている。シュリー州の州都まで、お父様の魔力なら速駆で2日。シュリー州都からザッハマインまで馬で1日というところだろう。……3日後には、ザッハマインに着かれるはずだ」


3日。

周辺の街や州から軍人が派遣されているとはいえ、これはよくある火竜討伐とは違う。

国境の障壁が壊されるというあまりにも大きな出来事だから、集結する軍の規模もこれまでとは段違いだろう。

各所から集められた指揮官たちも、その中の誰がこの大局の指示をだすのか判断しかねるかもしれない。

すべての状況を把握して統率できる将がいなければ、シュリー州はますます混乱するばかりだろう。


もちろん中央からも遠話での指示を与えるだろうけれども、遠話ではわからない状況も多いだろうし。

中央軍に先駆けて向かわれたというお父様が到着されるまでの3日、彼らが持ちこたえてくれることを祈る。


そしてお父様の娘としては、お父様のご無事とご武勲を。


あぁ。グラッハを守る武のハッセン公爵の娘だというのに、わたくしはとても弱い。

お父様はグラッハのために公爵としての責務を果たすために行動されているというのに、わたくしはシュリー州の無事よりもお父様の無事を願いたいと思ってしまう。

そんな無様な真似は、自分の心の中だけでもすべきではない。


「わかりました」


わたくしはお兄様の目を見つめ返し、うなずいた。

けれど、お兄様のお話はそれで終わりではなかった。

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